サーチファンドとは?仕組みからメリットとデメリットを解説

サーチファンドとは、社長を目指す個人が出資者の協力で中小企業を買収し、自ら経営に携わる活動方法。資金力がなくても経営にチャレンジできる仕組みとして、注目を集めています。しかし日本ではまだ認知度が低く、仕組みやメリット・デメリットなど、わからない部分も多いでしょう。

サーチファンドに関する理解を深めたい人は、その道で活躍するプロの話を参考にすることが近道です。サーチファンド事業を展開する「株式会社ロケットスター」の代表取締役社長・荻原猛氏にインタビューしました。

そもそもサーチファンドとは?

サーチファンド(Search Fund) とは、社長候補のサーチャーが主体となり、出資者の援助を受けながら中小企業を買収し、自らが「新社長」になったうえで会社の業績を伸ばす仕組みです。アメリカのビジネススクール発の事業継承モデルであり、英米圏からは「MBA取得後」のキャリアの1つとして認識されています。

荻原:経営している株式会社ロケットスターでは、社長候補のサーチャ―さんにお会いし、その人のやりたい仕事や夢などを聞いたうえで、一緒に「希望と合致するような会社」を買いに行く流れです。

社長ありきで会社を買う点が特徴であり、ユニークな点かなと思います。

メインターゲットとする「中小企業」の場合、社長とのフィット感は外せません。そのため、社長と一緒に会社を選び、コミット感を大切にしています。

僕自身の起業を成功させた要因の1つは、自分の「こういうものをやりたい」という思いを形にできたことなので、人から入るサーチファンドは、起業を成功させやすいと思います。

サーチファンドとPE(プライベートエクィティ)の違い

サーチファンドは、しばしばPE(プライベートエクィティ)と混同されがちです。PEとは、非上場かつ成長中の中小企業を買収し、価値を高めて利益を得る手法を指します。サーチファンドとPEの決定的な違いは、投資する対象です。

~投資の対象~

  • PE(プライベートエクィティ)…企業
  • サーチファンド…人

荻原:PEの場合には、会社がドーンと売りに出ているものを「よし、この資本で買うぞ!」と購入します。誰に社長をやってもらうかを考えるのはその後です。一方サーチファンドの場合には、あらかじめ社長は決まっていて、その社長に適した会社を買いに行きます。その人が一番やりたいことから入れますしね。やりたいことから入ると、事業の成功確率も高まるんです。

サーチファンドの仕組み

先述のPEをはじめとしたファンドは、基本的に「譲渡される企業」と「出資者」の二者間で実行されることが特徴です。

一方、サーチファンドでは、以下の三者間で取引が実行されます。

  • 経営者候補(=サーチャー)
  • 譲渡される企業
  • 出資者

サーチファンドの場合には、出資者が資金面をサポートしてくれるため、開業時の資金調達という部分で、経営者の負担を軽減できます。

サーチファンドの流れ

サーチファンドは、出資者が2回にわけて出資するケースが一般的です。基本的なサーチファンドの流れは、以下の通りです。

1、サーチャ―が1回目の出資を受けながら、買収したい企業を探す(目安:2~3か月)
2、希望の企業が見つかったら、出資者から2回目の出資を受け、対象企業を買収する(目安:半年~2年)
3、サーチャーが買収企業の経営者になり、企業成長をはかる(目安:5年前後)
4、出資金を回収できたら、投資家への還元を行なう

投資家に還元する際には、一般的に「上場」や「株の売却利益」が検討されます。

サーチファンドのメリット

昨今において、サーチファンドへの注目度が高まる理由は、多くのメリットがあるからです。主なメリットは、以下の通りです。

開業時の資金が不要

起業する際には、契約金・工事費・機材の購入費など、多くの開業資金が必要になります。また、起業したばかりの時期は売り上げが安定せず、自身の貯金をはたくこともあるでしょう。

サーチファンドを活用すると、会社を買収する際の資金を出資者が支払ってくれるため、開業時の資金が不要です。

荻原:サーチャーに入ってもらう会社を購入する場合、我々が100% 購入しますので、「今ある貯金をはたいて何パーセント分はあなたが買ってね」 といった事態にはなりません。もちろん、「1,000万を人から借りてきて」ということも言わないので、開業時の資金を心配する必要はありません。 起業の導入部分で、 ほとんどリスクがないうえに社長ができる点は魅力だと思います。

初月から報酬が入る

一般的な起業の場合、初月から報酬が入る確約はありません。起業当初は売り上げも安定せず、日々の生活に苦労するケースも見受けられるでしょう。しかしサーチファンドであれば、初月から報酬が入ります。

荻原: サーチ ファンドに申し込み、社長に認定されて一緒に活動する流れになれば、我々が購入した会社の社長になってもらいます。サーチファンドでの起業は、起業したばかりで給料がありませんといった「スタートアップ的な開始」ではないので、初月からきちんと報酬が入ることも特徴です。そのため、最初から生活が安定します。家族がいる人も、きちんと食べさせていける点は魅力だと思います。

起業のつらい時期を投資家が支えてくれる

起業したばかりの時期は、売り上げが安定しないのはもちろんのこと、会社をまわすためにさまざまな苦労を強いられがちです。人によっては、事業を継続することが困難になり、やむなく廃業してしまいます。

サーチファンドを活用すると、起業のつらい時期を投資家が金銭的に支えてくれるので、初期に抱える課題のハードルを下げられるでしょう。

荻原:会社を設立してから、経常1,000万・2,000万を上げるまでの期間は、非常に大変です。

サーチファンドを活用すれば、売り上げをきちんと上げられるまでの「厳しい期間」は、僕らがオーナーとしてやっているので、つらい時期を投資家が支えてくれるのは魅力だと思います。つらい段階を乗り越えたら「じゃあ売却しますよ」という手順になるので、 この厳しい時期を僕らがもてるって言うことも、サーチファンドのメリットと感じてもらえるのではないでしょうか。

腕次第でオーナー社長になれる

サーチファンドを活用すると、つらい時期を出資者が支えてくれるうえに、腕次第ではオーナー社長になれる可能性があります。

荻原:仮に僕らが会社を1億円で買って、そこに入ってくれた社長が5,000万円とか1億円まで着実に業績を上げてくれたら、3億で売却するよという流れになるわけです。1億で買って3億で売れば、僕らの利益は2億です。 サーチャーのみなさんは「会社の購入資金」を出してないものの 、双方で約束した数字を達成できれば、株式はすべて社長に売却して良いと思っています。そのため、社長の能力次第では、オーナー社長になれる可能性があります。

オーナー社長の魅力は、使えるお金の自由度が違うこと。その会社の株主が100%自分であれば、「会社の資産=自分の資産」です。委託された経営者とは、違うことができると思います。 今後こういう風にお金を使いたいなとか、こうやって投資していきたいなとか、自由ですよね。

メンターがいる

起業をすると、孤独を感じることは多いものです。従業員を雇用し仲間ができたとしても、「上司と部下」と「横の関係性の仲間」は異なります。サーチファンドを活用すると、メンターと言える仲間ができます。

荻原:メンターは重要で、僕にも存在します。0から起業したら、大変だったと思いますよ。サーチファンドのような仕組みがあったので、僕は成功したと思っています。 僕たちのようなサーチファンド会社を活用すれば、出資者がメンターになるため、成功へのスピードも早まると思います。

サーチファンドのデメリット

サーチファンドには、メリットもある一方で、デメリットもあります。

主なデメリットは、以下の通りです。

出資者への支払い

サーチファンドでは、企業成長によって一定の成果が出ると、会社を完全にサーチャーのものにするため、サーチャーから出資者に規定の金額を支払います。自ら起業する場合には、出資者への支払いはないため、こうした点をデメリットと感じる人もいるでしょう。

荻原:起業スタート時の厳しい時期は、僕らがオーナーとして携わるので、厳しい時期に僕らがフロントに立つ点はメリットと感じてもらえると思います。

逆に言えば、僕らが間に入る分、値段は上がってしまいます。「費用が余計にかかるのであれば自分でやりますよ」と考える人については、サーチファンドは向かないかもしれません。

ただし、低リスクで「事業が軌道に乗ったら、会社を丸ごと自分が買える点はメリット」かなと思います。メリット・デメリットの両方があるものの、個人的にはメリットの方が大きいと考えます。 

日本での認知度が低い

日本でもサーチファンドの注目度は高まってきたものの、海外と比較すれば、まだまだ認知度が低いのも現状です。実際に、サーチファンドの詳細を知らない投資家も見受けられます。

サーチファンドは誰かに出資してもらわなければ、実施できないシステムです。出資者がサーチファンドを知らなければ、そもそも出資してもらえないため、日本における認知度の低さはデメリットだと言えます。

日本での認知度アップに向けて、サーチファンドの有用性を示す必要があるでしょう。

荻原:サーチファンドという仕組みは、日本の社会課題に貢献できると考えます。日本では「中小企業の給料が安い」と言われていますが、そのようなことはないと思います。

僕は「中小企業の給料が安い」と言われる部分に抗いたいですし、課題の解決を目指したい。そのためには、起業家を増やし、事業継承がしっかりできる仕組みを作りたい。

サーチファンドが日本でも浸透すれば、能力ある起業家が「起業という夢を諦める」事例が減るでしょうし、能力ある会社を倒産させなくて済みます。能力ある会社が経営を続け、能力ある社長が増えれば、会社の生産性、ひいては日本全体の生産性をアップできるので、中小企業の給料全体を上げられるのではないでしょうか。

サーチファンドに適している人

サーチファンドには、メリット・デメリットがあると分かりました。両者を踏まえたうえで、サーチファンドの利用者として適する人は、どういった人なのでしょうか?

素直さ・誠実さをもつ

荻原:僕個人は、サーチャーと一緒にやると決めたら「30年後も50年後もずっと一緒にやろう」という気持ちがあります。残りの人生を、社長さんたちとワイワイ・ワチャワチャしながら過ごせたら良いですね。そう考えると、サーチャーは、出資者に対し「この人とならやっていける。面倒をみたい」と思わせられることが重要です。面倒をみたいと思わせるには、「素直さ」や「誠実さ」は欠かせません。

事業に対する熱い思いがある

荻原:事業を成功させた人は、然るべき部分で、色々な人の助けを受けています。とくにサーチファンドは出資者からの助けが必須なため、助けを受けやすい人柄は重要な要素です。助けてもらうには、光る何かをもつことが大切です。

起業で言えば、自身が「こういった事業をやりたい」という熱い意欲ですね。事業に対して熱い思いがあれば、その思いがピカピカ光り、周囲には魅力的にうつります。

魅力的な人が困っていれば、助けたいと思うものです。助けてくれる第三者が増えれば、事業の成功確率もアップするのではないでしょうか。

仲間を巻き込む力がある

荻原:事業を始める際には、1人よりチームの方が良いと考えます。なぜなら、チームの方が事業の成功確率が高いからです。チームといっても、知らない仲間のチームではなく、以前から知っている仲間を含むチームが良いでしょう。

個人的には、サーチファンドを始める際に、CxOを連れてきて欲しいですね。CFOでもCMOでも構いません。知人を新たなビジネスのパートナーとして連れてこられる人は、仲間を巻き込む力があると言えます。また、サーチファンドを始める際に、知人を連れてくる覚悟も示せます。

自社の場合には、連れてきた知人にもストックオプションを配っています。

マネジメントの成功体験がある

荻原:サーチファンドを行なう際に、間違いなくマネジメントの成功経験は必要です。なぜなら、会社の舵取りをするのはサーチャーだからです。マネジメントの成功経験がなければ、せっかく自分の会社になっても、組織をうまくまわせず会社をダメにする可能性もあるでしょう。

マネジメント経験があり、部下をやる気にさせて成果が出るチームを作れるかで事業の成功度が変化します。マネジメント経験は会社経営の土台になるので、日頃からさまざまなチャレンジをすると良いでしょう。

まとめ

サーチファンドは、サーチャーに合う会社を購入し、新社長に就任したうえで会社の業績を伸ばす社会的意義の高い仕組みです。起業をしたいものの、費用面がボトルネックとなり行動に移せない人には最適な手法だといえます。

今回は「サーチファンドとは?」ついてご紹介いたしました。

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