【セミナーダイジェスト】ロケットスター・荻原猛|仲間として共に歩み、大義を果たす。三度目の起業として、サーチファンドを選んだ理由とは?

ソウルドアウト株式会社の創業者として知られ、自身三度目となる起業として、サーチファンドを柱とする「株式会社ロケットスター」を立ち上げた荻原猛氏。さる2023年11月9日、荻原氏をお招きし、新たに始めた事業の根幹に迫るセミナーを実施いたしました。

そこで、約一時間にわたったセミナーをプレイバック。荻原氏がサーチファンドを立ち上げた理由や起業の失敗と成功から得た学び、さらには社長候補となるサーチャーに求められるスキルから荻原流ビジネスとの向き合い方まで、ダイジェストでお届けします。

「こんな起業の仕組みがあったなら」を実現するサーチファンド

新たに立ち上げた「ロケットスター」という会社は、僕にとって三度目の起業です。起業は自分の思い描いた絵を表現し実現できる、素晴らしい取り組みである一方で、リスクも伴います。僕自身、過去の起業は一勝一敗。最初の起業は失敗しています。しかも、僕の父親も起業をしていて、彼も失敗している。失敗したときのリスクは家族にも降りかかります。ロマンはあれど、リスクが高いのが起業ではないでしょうか。

僕が一度目の起業をしたのは、大学卒業後すぐのことでした。「俺はこうする、こうしたい」と勢い勇んでいました。もちろん、そうした若さゆえの勢いも大切ですが、今振り返ると「誰かのために」という視点が抜けていたのかもしれません。

「俺は、俺は」と主語が自分ばかりに寄っていた当時の姿勢では、なかなか売上が上がらず、常にキャッシュフローと睨めっこしていました(苦笑)。そうした状況でしたから、一度目の起業は2、3年でギブアップ。当時を振り返ると、誰かの役に立ってこそ、お金がもらえるということが全く理解できていなかったな、と反省しています。一緒に会社を立ち上げた仲間とも疎遠になってしまいました。

その後、株式会社オプトに入社。マネジメントの技術をはじめ、オプトではさまざまなことを学ぶと同時に、自分なりの志を見つけることもできました。僕が二度目の起業として「ソウルドアウト」という会社を立ち上げたのも、「インターネットを使って、中小企業の皆さんの力になりたい」という志があったからです。

だから、二度目の起業は成功できました。これが僕の一勝です。成功の理由は明らかに、経験値と志。僕が三度目の起業にサーチファンドという事業を選んだのは、サーチファンドというスキームなら、自分自身の経験が生かせると考えたからです。また、サーチファンドは起業に伴うリスクを大きく軽減させます。「起業をするにあたり、こんな仕組みがあったらいいのに」を突き詰めたようなスキームが、サーチファンドだと考えます。

オーナー社長への道を拓く、荻原流のサーチファンド

「起業したい」「経営者になりたい」という志をお持ちの方にとって、最初のハードルとなるのが「食べていけるのか」という懸念ではないでしょうか。僕自身も経験したように、起業に伴う圧倒的なリスクが資金繰りです。それがサーチファンドの場合、事業の母体となる会社を買うのは僕たち。僕たちが100%株主の形で、有望な会社を購入します。

そのため、社長候補となるサーチャーの方が貯金をはたく必要はありません。また、サーチャーの方には僕たちから役員報酬をお支払いするため、「起業したばかりなので、お給料は発生しません」ということもありません。すると、「食べていけるのか」という生活への不安が払拭されます。これが起業とサーチファンドの最たる違いではないでしょうか。

また、サーチャーの方と僕たちが共に設定した目標の経常利益を達成できたなら、僕はその会社をサーチャーの方に売却していいと考えています。つまりは、サーチャーの方は起業に生じる出資をする必要なく、腕次第ではオーナー社長になれる。オーナー社長になれば、すべての意思決定が行えます。責任重大な一方、これがオーナー社長のロマンです。

孤独じゃない、サーチャーとサーチファンドは運命共同体

ただ、会社経営というのは波に乗るまで、経常1,000万、2,000万を上げるまでが苦しい。僕自身の経験からも言えますが、これを経営者一人の力で乗り越えるのは本当に大変です。それが僕の考えるサーチファンドなら、サーチャーの方と僕たちは運命共同体。その厳しい時期を、僕たちは一緒に歩みたいと考えています。

言い方を変えるなら、僕たちはサーチファンドであるのと同時に、サーチャーの方のメンターです。僕自身、多くのメンターの方に助けていただきました。二度目の起業であるソウルドアウトを成功させられた一因も、メンターの方々にあります。

例えば、オプトの創業者である鉢嶺さんは、私にとってとても大きな存在です。当時起業直後で、なかなか周囲の信用を得られない中、鉢嶺さんは僕を飲み会に連れ出し、営業先を紹介してくださり、人脈づくりをサポートくださいました。鉢嶺さんのようなメンターがいれば、走り出したばかりの経営者も孤独ではありません。また、サーチャー同士のネットワークも生まれるため、お互いに話し合い、アドバイスもし合えるでしょう。

ちなみに、ロケットスターでは僕を含む経営者経験のある三人がメンターの役割を務めます。他の二人は共にサーチファンドを起業した仲間で、いずれも経営者としてビジネスの最前線で戦ってきた経験を持ち合わせています。そして、将来的には僕たちだけでなく、外部の経営者の方にもご協力いただき、メンターを増やすことも考えています。BNGの蔵元さんのように、すでに成功された経営者の方に相談できるようなルートを設けることも考えています。

サーチャー=社長候補に求められる、4つの素養とスキル

三度目の起業となるサーチファンドは、僕の人生の集大成。サーチャーはともに歩んでいく仲間であり、「今後10年、50年と一緒にやろう」という気持ちがあります。それだけに、サーチャーには「この人の面倒を見たいな」と思わせるような素直さ、誠実さが大事になるのかな、と考えています。非常に感覚的ではありますが。

また、サーチャーは会社の社長として、ビジネスを引っ張る存在です。そうであるからには、社員の皆さんや取引先の方々を惹きつけるような、きらりと光るビジョンが必要です。そして、サーチャーにはご自身の右腕となるような、ナンバーツー、ナンバースリーの人材を引き連れてきていただきたいな、と思います。他人の人生を巻き込むくらいに真剣な姿勢が、事業の成功確率をぐっと引き上げると考えているからです。

マネジメント経験があるかどうかも重要なポイントです。僕が一度目の起業に失敗し、二度目の起業に成功できたのには、マネジメント経験の有無が大きく関係しています。一方、社長としてどのような事業を展開していきたいのか、そのプランは曖昧でも構いません。「こういう領域のことをやってみたい」というくらい、それで十分です。

会社を買うからには、実際に事業をスタートさせた瞬間に勝てるくらい、徹底的に深く研究を重ねます。研究を重ねる前提があるからこそ、細かな事業プランは不要です。サーチャーとして認定させていただいた後に、僕たちと一緒に突き詰めていけばいい。そして、この期間にサーチャーの方と僕たちの間に何かしらの不一致があれば、その段階で袂を分かつ形になっても構いません。むしろ、それが可能な形の契約を結ぶことが健全です。

ただ、実際に事業をスタートさせたからには、ビジネスから逃げない覚悟は必要だと考えています。社長はいつ何時も、周囲から意思決定を求められます。「また!?」と思ってしまうくらい、一日に何度も打席に立つような感覚です。それでも、松下幸之助さんの言葉のように「雨が降っても自分のせい」と思えたのなら、それは本当に素晴らしいことです。

日本の社会課題を解決へと導く、サーチファンドの大義

僕が三度目の起業にサーチファンドを選んだ理由。それは自分の経験を生かせるのと同時に、このスキームに大義があると思っているからです。その一つが起業家を増やせること。会社員として経験を積み、その経験を糧に起業をしようにも資金や家族への負担が足かせとなり、なかなか踏み出せない。サーチファンドは、この足かせを払拭します。

二つ目は、事業承継を実現できること。僕はソウルドアウトの社長を務めていた当時、何千社という中小企業の社長さんと出会いました。すると、ときにギブアップ宣言をされる方もいます。潜在能力はあるのに投資を続けることが難しく、投資への消極性が事業を衰退させてしまう。これは本当にもったいないことです。

事業承継として一般的なのがPE※ファンドですが、PEファンドは売りに出されている会社を買収し、そこに経営者人材を当てはめていく形です。一方、サーチファンドは、社長候補となるサーチャーありき。サーチャーと買収する会社のフィット感をより重視することができるため、多様な文化や価値観を持つ中小企業の事業承継にこそ、個別のニーズにも対応しやすく力を発揮すると考えます。

そうして日本の中小企業を元気にできたなら、これも日本の社会課題である中小企業の低賃金にも抗えるはずです。かねてから中小企業の生産性の低さが指摘されていますが、そんなことはありません。素晴らしい会社にもかかわらず、黒字倒産を選ぶという実状があります。僕は三度目の起業として、この課題に真正面から向き合いたいと考えています。

※PE(プライベートエクイティ):非上場かつ成長中の中小企業を買収し、価値を高めて利益を得る手法のこと