執行役員になるときは従業員を退職しなければならない?!

企業の中核を担う執行役員への昇格は、キャリアの大きな転機です。ただ、執行役員への昇格には「雇用形態の変更」や「社会保険の取り扱い」など、さまざまな変更が生じることがあります。

今回は執行役員になったときの待遇や社会保険適用のルール、そして執行役員になるために必要なスキルなどについて詳しく解説します。

これから執行役員を目指す方、社内で執行役員制度を検討している企業の幹部の方などもぜひ参考にしてください。

執行役員になるときに覚えておくべき退職手続きや社会保険のルール

執行役員になるときは「従業員を退職しなければならない?」「社会保険は適用される?」など、さまざまな疑問が出てきます。

退職手続きや社会保険の取り扱いについては、下記3つのポイントを覚えておくと良いでしょう。

【執行役員になったときの退職手続きや社会保険の取り扱いについて】

1. 執行役員になったときに退職するかは役員の契約形態で異なる
2. 退職金は執行役員の契約形態によって変わり委任型の場合は支払われることが多い
3. 社会保険は雇用型の場合は従来通り。委任型の場合は対象外となる

執行役員になったときに退職するかは役員の契約形態で異なる

執行役員になるときに退職するかは役員の契約形態で異なります。執行役員には「雇用型」と「委任型」の二つの契約形態が存在します。雇用型の場合は従業員としての地位が継続されるため退職する必要はありません。

一方で委任型の執行役員は限定した委任契約が結ばれるケースが多く、従業員ではなくなるため退職しなければいけません。

同じ会社で従業員から執行役員に昇格する場合は雇用型になるケースが多く、退職しないのが一般的です。

執行役員になるときの退職金の扱い

退職金の取り扱いも、雇用型執行役員か委任型執行役員かで変わります。

雇用型執行役員の場合は、執行役員に昇格したタイミングでは退職金は支払われず、定年に到達したときに退職金が支給されることになります。

一方、委任型執行役員になる場合は会社と雇用関係がなくなるわけですから、退職時に退職金が支払われます。

企業型確定拠出年金に加入している社員が委任型執行役員になった場合は。個人型確定拠出年金(iDeCo)への移換手続きが必要です。

退職金の取り扱いは執行役員のタイプや企業によって違いがあるため、これから執行役員になる予定の方は規定などを事前に確認しておいたほうが良いかもしれません。

執行役員になるときに必要な社会保険の手続き

社会保険についても、退職金と同じく雇用型か委任型かで変わってきます。

雇用型なら社会保険への継続加入が可能で、委任型執行役員の場合は個人で国民健康保険に加入しなければいけません。

ただし、会社法における取締役と執行役員を兼務するケースにおいては、健康保険と厚生年金は引き続き加入できる場合があります。

雇用保険についても、下記厚生労働省のFAQにもあるように、従業員と同じ立場なら加入は可能です。

【厚生労働省公式サイトより】

Q4 取締役や会社の役員は雇用保険に加入できるのでしょうか。

A:会社の取締役や役員は、原則として被保険者となりません。ただし、会社の役員と同時に部長、支店長、工場長等の従業員としての身分を有する者は、服務態様、賃金、報酬等からみて、労働者的性格の強いものであって、雇用関係があると認められる場合に限り、雇用保険に加入できます。この場合、雇用の実態を確認できる書類等をハローワークに提出していただく必要があります。雇用保険に関する手続きは、事業所の所在地を管轄するハローワークにて行うため、要件に該当するか迷う場合等、まずはお近くのハローワークにご相談ください。

引用元:厚生労働省公式サイト

執行役員の職務内容や待遇

執行役員には多岐にわたる業務を遂行する責任が求められる一方、高額な報酬を得られるというメリットもあります。

執行役員の具体的な職務内容と待遇、任期などについても詳しく見ていきましょう。

執行役員の職務内容

執行役員には「代表取締役、および取締役の代理として業務執行にあたる」ことが求められます。代表取締役や取締役は、取締役会で決議された事項を遂行する義務がありますが、取締役会で定めのない事項は自ら決断し実行していかなくてはいけません。

執行役員は、この「代表取締役などが行うべき決断の補助役」となります。具体的には、会社の方針を理解し具体的な戦略を策定。その戦略をもとにプロジェクトを実行に移し、目標達成のための人材リソースの配置や部門間の調整の責任も担うことになります。

執行役員の報酬

雇用型執行役員は企業の使用人に位置するため、一般的な従業員と同じ「給与や賞与」が支払われるのが一般的です。

基本給とは別でインセンティブが支払われたり、インセンティブ制度のひとつとしてストックオプションが適用されたりする場合もあります。

一般的には、社員のグレード評価における報酬の延長線で考えられることがほとんどです。例えば、一般社員のグレードが1~5で「5」が最高グレードなら、執行役員は6に位置する報酬が与えられるケースが多いでしょう。

報酬は基本給と業績給に分けられることが多く、執行役員になると業績給のウエイトが大きくなるのが一般的です。

執行役員の任期

執行役員の任期は企業によりさまざまですが、一般的には取締役の任期と同じケースが多いようです。

取締役の任期が1年なら、執行役員も1年ごとに更新されるイメージです。ただ、中小企業や大企業においては、60歳や65歳など「雇用契約上の定年」を迎える前に執行役員に昇格するケースが多いかもしれません。この場合、執行役員に昇格しても法律上は使用人であることから、1年ごとの更新といっても実質60歳や65歳まで雇用は続きます。

執行役員として成果を出せない場合は、取締役会の決議をもって解任される場合もあるため注意が必要です。

執行役員の定義と執行役員制度のメリットデメリット

執行役員の定義や、執行役員制度のメリットデメリットについても詳しく見ていきましょう。

具体的にどのような役割を持ち、執行役員制度が企業にどのようなメリットをもたらすのかについて解説します。

執行役員とは?「事業運営の実質責任者」

執行役員は、会社の日々の運営を実質的に指揮する責任者のことを指します。

ちなみに、執行役員制度については明確に定められた法律はありません。執行役員には「事業遂行における責任者」「経営幹部」「人事責任者」などの側面がありますが、定義を絞るとすれば次の2つに集約されるでしょう。

【執行役員の定義】

1. 経営層から代理権を与えられた業務執行最高責任者
2. 目標達成に必要な人的リソースについて権限を有する者

具体的には、経営者が決めた重要な事業戦略を具体的に実行していくのが「執行役員の責務」です。

執行役員は会社法で定める役員とは異なる

会社法で定義される「取締役」は、企業の最終的な責任者として全体方針や戦略を決定します。一方、執行役員は戦略的決定を実行に移す役割を担います。

具体的には、部門管理やプロジェクト推進、予算執行などが執行役員の役目です。事業運営に関わる人事の決定についても、執行役員が権限を有するケースが多いでしょう。

執行役員制度のメリット

執行役員制度を導入するメリットは多岐にわたります。

もっとも顕著なメリットは「経営の迅速化」と「専門性の向上」です。執行役員は、特定の業務において経験値が高いケースが多く、特に変化が激しいビジネス社会において迅速な意思決定や業務遂行が可能になる点は大きなメリットと言えます。

また「経営陣は戦略と目標の決定」「執行役員は目標達成に向けた陣頭指揮」と役割を分けることにより、それぞれ高いパフォーマンスを発揮できるようになります。執行役員制度を適切に運用できれば、結果として企業の成長にもつながるでしょう。

執行役員制度のデメリット

執行役員制度には、いくつかのデメリットも存在します。

もっとも大きなデメリットは「役割の複雑化によりコミュニケーションが悪くなる」点です。決定権を持つ執行役員が多くなると、意思決定のプロセスが煩雑になりがちです。また、役員間の権力争いや責任の所在が不明確になることもあり、組織の統一性が損なわれるリスクもあります。

また、誤った方針で事業運営がされるというリスクもあります。大きな権限を持つ執行役員が運営方法を間違ってしまい、誰も意見を言えなくなるとガバナンスが保たれなくなるでしょう。このようなリスクを回避するためには、監査役や取締役が常に監視する仕組みを構築しておくことが大切です。

執行役員になるまでのステップ

執行役員になるためのステップについても簡単に解説します。

執行役員までの道のりは単純なものではありませんが、少なくともつぎの3つのステップは必要です。

1. 社内でのキャリア形成
2. 経営戦略への参画と人脈形成
3. 執行役員候補選出と取締役会の承認

社内でのキャリア形成

執行役員になるためには、まず社内での信頼と実績を積み上げることが重要です。さまざまなプロジェクトや部門の責任者としてリーダーシップを発揮し、具体的な結果を出すことが求められます。

また、特定の分野で顕著なパフォーマンスを示すことが必要で、継続的な学習意欲と自己改善の意識も求められるでしょう。

定量的な結果と人格が認められてこそ、将来の役員候補の地位を固めることができます。

経営戦略への参画と人脈形成

経営戦略に直接参加し、社内外の重要なステークホルダーとの関係を築くことも執行役員になるために必要なステップです。

重要な会議に積極的に参加し自身の意見を提案することは、強いリーダーシップ能力と問題解決能力を示す絶好のチャンスです。

経営層はもちろん、顧客や主要関係先・業界団体のリーダーとの人脈を形成しておけば、執行役員になったあとの業務も進めやすくなります。

執行役員候補選出と取締役会の承認

執行役員になるまでの最終のステップは「執行役員候補者の選出」と「取締役会での承認」です。

経営幹部からの推薦を受けたあと、社内の経営会議などで執行役員候補者の議論がおこなわれ候補者が決定します。そして取締役会の承認に進むわけですが、会社法第362条第3項では「取締役会が決議すべき事項」として、「支配人その他の重要な使用人の選任及び解任」についての記載があります。

執行役員の任命は上記の「重要な使用人の選任」に含まれるため、基本的には取締役会の承認を得なければいけません。

さらに、執行役員に任命されたあとは、監査役の監査対象になることも覚えておきましょう。

執行役員に求められるスキルと向いている人の特徴

執行役員として成功するためには、次の4つのスキルが必要です。

1. マネジメント能力やリーダーシップが高い
2. 戦略的思考に長けている
3. 社内外の人的ネットワークに強い
4. チャレンジ精神が強く意思決定が早い

レベルの高い戦略的思考や素早い意志決定については、特に重要なスキルと言えます。

マネジメント能力やリーダーシップが高い

執行役員には、高いマネジメント能力とリーダーシップが求められます。

部門責任者とは違い、執行役員には全社を統率する能力が必要です。社内だけではなく、さまざまな社外のステークホルダーなど、異なる背景を持つ人をマネジメントする能力も求められるでしょう。

執行役員は各部門の責任者を統括し、全社的な目標を達成させる責務があります。そのため、部下となる部門長や部長とは特に深いコミュニケーションを取り、自発的に考えさせる支援型のマネジメント能力も必要です。

戦略的思考に長けている

執行役員は、市場動向を正確に分析しながら目標達成に導く必要があるため、戦略的思考が必要です。競合他社の動向や顧客の需要分析、事業をとりまく法改正など、さまざまな要素を総合的に判断し戦略を練らなければいけません。

変化が激しい業界においては、市場や顧客ニーズの変化を敏感にキャッチし、状況に応じて戦略を変更していく柔軟性も求められるでしょう。

また「他社が気づいていないチャンスを見いだす力」も期待されます。中長期的な目線で他社より優位に立つための戦略を考え、成功に導く能力が必要です。

社内外の人的ネットワークに強い

成功する執行役には、社内外の人的ネットワークが不可欠です。

効果的な戦略や素早い意思決定を実現するには、各部門の責任者や社外のステークホルダーとの強い結びつきが求められるでしょう。

具体的には、つぎの3つの人的ネットワークが必要です。

1.社外ネットワーク

戦略を実行するためには、競合他社幹部、専門家・地域のステークホルダーとの強い関係が必要。多角的な視点から情報を入手し、外部ステークホルダーの協力を得ながら事業を遂行していくスキルが求められる

2.社内ネットワーク

営業、人事管理、プロモーションなど、さまざまな部署の責任者との良好な関係が必要。執行役員として部門間の調整を行うことも多いため、部署や階層を超えた高いコミュニケーション能力が求められる

3.行政とのネットワーク

ガバナンス強化のためには、法律の専門家や業界団体幹部との強いネットワークも重要。事業によっては法改正による影響も大きいため、行政とのネットワークも密にし、事業を取り巻く外部環境の動きに敏感でなければならない

チャレンジ精神が強く意思決定が早い

執行役員には、不確実な状況下でも迅速かつ効果的な意思決定を行う能力が求められます。

現代のビジネス環境は変化が激しく、ときに予測不可能な事態が発生することがあります。執行役員は市場の動向だけではなく、内部リソースや競合他社の同行を常に分析し、予想外のトラブルにも適切に対応しなければいけません。

素早い意思決定をするためには、内部から迅速に報告があがってくる仕組みを作っておくことも大切です。

執行役員にとって重要なミッションは「戦略立案と実行」です。チャレンジ精神が強く意思決定が早い執行役員なら、不確実なビジネス社会にあっても会社を良い方向に導くことができるでしょう。

まとめ

執行役員には多大な責任と挑戦が求められますが、それに見合うだけの報酬があり、かつ成功したときには大きな満足感を得られるポジションと言えます。

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監修者

人材育成/組織マネジメント専門ライター(KEN’S BUSINESS代表)

嶋よしかず

メーカーのエンジニア、法人営業コンサルタントを経て、大手通信企業にて600名の組織を統括。所属企業の経営戦略や人材育成に携わる。現在は大手オウンドメディアにて、組織マネジメントや人材育成などの記事執筆や監修に携わっている。