シリーズCラウンドにおいて総額118億円の資金調達を達成し、日本経済新聞社がまとめた2023年の「NEXTユニコーン」の一つにも選出されたキャディ株式会社。これが裏付けるように、2017年にたった3名からスタートしたキャディ社は圧倒的な成長を遂げ、いまや、従業員は500名以上。その目覚ましい歩みを牽引する一人が2021年4月に同社へジョインし、コーポレート本部長を務める芳賀亮太氏です。
芳賀氏は三菱商社に入社し、留学によってMBAを取得。その後、PEファンドであるカーライルに活躍の場を移し、40歳を前にスタートアップ企業であるキャディ社へと転職を遂げた経歴の持ち主です。
そうした経歴を武器に自社のエクイティストーリーの構築も担う芳賀氏と、BNGパートナーズエグゼクティブサーチ事業部長として、あらゆる採用の最前線を知る岡本勇一の対談から、前編では、自社の成長と可能性を市場にどうアピールするのか、そのノウハウに迫ります。
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ミッションは“モノづくり産業のポテンシャルを解放する”
岡本:2017年に創業され、2022年にはベトナムやタイに拠点を開設。さらに2023年1月にはアメリカ・シカゴに進出され、ノンストップな事業展開を見せているキャディ社。芳賀さんはコーポレート本部長として企業を牽引するお立場を担われていますが、まずは御社の事業内容について、改めてお聞かせください。
芳賀:テクノロジーを用いながら、製造業の課題を解決していく。これが私たちキャディのビジネスです。“モノづくり産業のポテンシャルを解放する”というミッションの下、具体的には二つのサービスを展開しています。まず、ひとつ目が「CADDi MANUFACTURING」。お客様からお預かりした特注加工品と呼ばれる一品物の図面を独自に解析し、品質も納期も価格も、調達先として最も適合した加工会社を選定。さらには完成した加工品の検査・納品までを弊社が一貫して担い、納品するといったサービスです。
そして、二つ目が「CADDi DRAWER」。これは製造業のデータ活用クラウド、SaaSと呼ばれる領域のサービスです。お客様が積み重ねてこられた膨大な図面をクラウド上にアップロードいただくと、我々が開発した画像解析のアルゴリズムにより、図面の高精度な類似検索が可能になります。さらには図面ごとに売価や個数といった情報を付加できることから、類似図面の抽出によって設計効率が向上するばかりか、図面にひも付いた過去の取引情報によって、調達や生産も効率化できます。要は、AIによる図面データの資産化です。
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キャディのビジョンが最も大きく、おもしろく、難しい
岡本:私たちBNGパートナーズは、ベンチャーの幹部採用に特化した人材仲介会社として15年目になりますが、これまで多くのスタートアップ企業を人材採用の面から支援して参りました。しかし、御社ほどクリティカルに何かを変えようとする企業は貴重です。キャディ社は、非常に稀有な存在です。
同時に、芳賀さん自身のご経歴も非常に興味深い。新卒として三菱商事に入社され、自動車の海外展開や投資事業に従事。その後、ハーバード・ビジネス・スクールに留学され、MBAを取得。帰国後はPEファンドとして知られるカーライルへ入社。そして、2021年にスタートアップであるキャディ社へ転職されています。
芳賀:私は大学院生のころに工学の研究をしていたため、ものづくり産業に対する、なんとなくの愛着があったんです。ビジネスの世界に進もうか、それとも研究開発者の道に進もうか、迷ったくらいでしたから。結果的にビジネスの世界を志向したわけですが、40歳を迎える手前のタイミングでしたね。自分の人生の時間をどういったことに費やすべきなのか、と考えたときに、今後は既存のビジネスではなく、新たな産業を生み出すことに注力したい、と。この“新たに生み出す”ことが、スタートアップの意義の一つですよね。
岡本:では、新たに生み出す場所にキャディ社を選ばれたのは、なぜだったのでしょう?
芳賀:いくつかのスタートアップ企業の方とお会いしましたが、率直に、キャディの掲げるビジョンが最も大きく、おもしろく、難しいと感じたからです。代表の加藤もCTOの小橋も、誰もが難しいチャレンジをいとわず、むしろ、果敢に向かっている。そうしたメンバーと共に製造業という巨大なマーケットへ挑んでいくとなれば、おもしろいに違いありません。そこに、私の根っこにあるものづくり産業への愛着が相まって。
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過去は変えられない。だからこそ、戦略をシャープに
岡本:果敢なチャレンジが着実に実を結び、御社の成長を裏付けている一つが直近の資金調達額です。キャディ社は2023年夏、シリーズCラウンドにおいて総額118億円の資金調達を達成したことを発表。日本経済新聞社が実施した2023年の「NEXTユニコーン調査」においても、御社はその一つに数えられています。
一方、業歴の浅いスタートアップにとって、いかに投資家の関心を引き、自社のビジネスモデルと成長の可能性を伝えるかは大きなポイントであるはずです。そこで、お聞かせください。芳賀さんはキャディ社の資金調達も担われていますが、どのようにエクイティストーリーを作られ、展開されているのですか?
芳賀:大前提として、これまで展開してきた事業も実績も、過去を変えることはできません。過去を変えられない以上、我々はどのような視点を持ち、何を大事にし、だから今の実績がある、というお伝えの仕方を徹底しています。将来的な事業展開にしても同様に、何を考え、何をやり、そのうちの何がうまくいき、何がうまくいなかったのか、そうした成功と失敗と踏まえた上で、今後の展開をご説明するような形です。
つまりは、経営的な戦略をシャープにすること。これが非常に重要であると考えます。過去にお化粧をしたところで、過去と未来は地続きですよね。変えられない過去の実績に基づきながら、どのような戦略の上に将来の計画が成り立ち、具体的にどんな形で計画の実現にまで至っていくのか。これをいかにロジカルに伝えられるかが、結果的に説得力のあるエクイティストーリーを構築していくのではないでしょうか。
そうしたエクイティストーリーの構築を前提に、一口に投資家といっても千差万別です。AさんとBさんとCさんの人格がすべて異なるのと同様に、投資家と呼ばれる方たちにも特性があります。例えば、ベンチャーキャピタルなのか、グロースキャピタルなのか、それとも上場株に投資をしているのか。こうした属性はもちろんのこと、投資家や投資企業の思考や志向によっても、何を投資のポイントと見るかは異なります。
すると、同じストーリーを語るにしても、すべての投資家に同じような展開の仕方をしても刺さりません。例えば、アーリーフェーズの企業に投資をされている方には、自社の世界観や自社を構成する人物像をきちんとお伝えし、「このチームにお金を預けたい」と思わせることが重要です。一方、その対局として上場株に投資をされている方にアピールするには、数字もKPIも、よりシビアに開示する必要が生じます。
岡本:非常に具体的に、ありがとうございます。そうしたストーリーの構築・展開のテクニックには、芳賀さん自身のご経歴が生かされているように感じます。芳賀さんは“投資する側”も経験されていますよね。
芳賀:そうですね。カーライルに在籍していた当時は投資家の立場だったため、投資する企業を見極めるには何がポイントとなるのか、その判断基準は持てているかもしれません。先ほども申し上げたように投資家は千差万別のため、私の判断基準も一つの物差しに過ぎません。ただ、投資家さんの特性ごとに、どこに濃淡や強弱を付けて自社をアピールすべきなのか。自分の中の物差しが、それを測る基準にはなっていますね。一つの物差しも持ち得ていないとなると、どう角度を変えるべきなのか、見えづらいと思うので。
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川上から川下までシームレスに流れる製造業の未来を築く
岡本:では、そうして得た資金を糧に、事業をどう進展させようとお考えなのか、今後の展望をぜひ。
芳賀:直近の資金調達額にしても、NEXTユニコーンへの選出にしても、非常にありがたいことである一方、製造業という巨大なマーケットに向き合う以上、私たちはまだまだちっぽけな存在に過ぎません。我々のミッションは、あくまでも“モノづくり産業のポテンシャルを解放する”ことです。グローバル展開やサービスの機能拡充はもちろん、中長期的には「CADDi MANUFACTURING」と「CADDi DRAWER」を融合させ、そこに集積していくデータを礎に、製造業がより良くなるようなソリューションの投下も視野に入れています。
川上から川下まで、バリューチェーンが長く広く深いのが製造業です。これは日本に限らず、巨大な業界ゆえにチェーンの間に分断が生まれ、業界全体に非効率が生じています。そうした課題に向け、私たちは「調達ならキャディに任せればいい」といった事業を築きたい。すると、製造業の皆さんは、よりご自身の強みに注力できます。究極的には、設計者が図面を引いた段階で想定しうる不具合も調達資金も納期もすべてがクリアになり、川上から川下までシームレスに流れるような製造業の未来を築きたいと考えています。
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