ジョブリターン制度とは?導入するメリット・デメリットや導入時のポイントを解説

ジョブリターン制度とは、退職した人がその後一定の期間を経て、本人が希望する場合に再び雇用する制度で、人材不足を背景として、注目を集めています。この記事では、ジョブリターン制度の概要やメリット、デメリットとともに、導入時のポイントや企業事例について解説します。

目次[非表示]

  1. ジョブリターン制度とは?
  2. ジョブリターン制度が注目される背景
  3. ジョブリターン制度を導入するメリット
  4. ジョブリターン制度を実施することのデメリット
  5. ジョブリターン制度を導入する際の注意点
  6. ジョブリターン制度を導入している企業
  7. まとめ

ジョブリターン制度とは?

ジョブリターン制度とは、育児や介護といったやむを得ない理由により退職した人を再雇用する仕組みです。退職後、一定期間が経過し、本人の希望があれば再び雇用します。企業によって名称が異なり「再雇用制度」や「キャリアリターン制度」「カムバック制度」とも呼ばれています。

ジョブリターン制度は、ワークライフバランスの推進にもなる制度であるものの、まだ一部の企業にしか浸透していません。厚生労働省の平成29年度雇用均等基本調査によると、ジョブリターン制度を導入している企業は約30%にとどまっています。

ジョブリターン制度が注目される背景

ジョブリターン制度が注目される背景には、企業の労働力不足や人材不足が挙げられます。近年の採用市場は少子高齢化による労働人口の減少により、売り手市場となっており、必要な若い人材や優秀な人材を採用することが難しくなってきたことが背景です。

また、終身雇用が当たり前となっていた時代から、近年では転職が当たり前の時代に変わりつつあります。転職が当たり前になり、人材の流動化が発生したことにより、企業の人材不足は深刻な問題となったのです。

人材不足を解消する方法として注目を集めたのが、ジョブリターン制度です。一度は自社で働いていた人材を採用すれば、企業風土やルールを把握しているため、ミスマッチが発生する心配がありません。教育時間も短縮され、業務内容によっては即戦力になるでしょう。

ジョブリターン制度を導入するメリット

ジョブリターン制度を導入するメリットには、以下の3つが挙げられます。

・採用や教育のコストが抑えられる

・社外の知識やスキルを自社に活かせる

・企業のイメージアップになる

ここでは、それぞれのメリットについて解説します。

採用や教育のコストが抑えられる

ジョブリターン制度を導入すれば、採用や教育のコストが抑えられます。新たに人材を獲得する場合、自社に適した人材かどうかを見極め、採用する必要があります。採用には広告費や人件費も必要です。ジョブリターン制度で再雇用すれば、採用にかかるコストを削減できます。

新たな人材を採用した場合、入社後の教育も必要です。スキルを持った人材でも、自社のルールや企業風土を理解してもらう必要があります。ジョブリターン制度で再雇用すれば、規則や制度、社内システムなどは把握しているため、入社後の基礎教育にかかる時間や人件費を削減できます。

以前に担当していた業務に戻るのであれば、即戦力としても期待できるでしょう。ジョブリターン制度の導入により、採用から入社後教育のコスト削減につながるのです。

社外の知識やスキルを自社に活かせる

ジョブリターン制度を導入すれば、社外の知識やスキルを自社に活かせます。再雇用した従業員がほかの企業で働いていた場合、そこでの知識やスキルを自社の業務に活かせることがあります。

業務のやり方だけではなく、規則や制度、教育方法についても、自社にない手法を取り入れられる可能性があるでしょう。また、自社を外からみた経験があるため、客観的な視点で自社の強みや課題を捉え、サービス向上やイノベーションの創出につなげられるかもしれません。

ジョブリターン制度の導入により、社外の考え方を自社の業務に取り入れられるのです。

企業のイメージアップになる

ジョブリターン制度を導入すれば、企業のイメージアップにもつながります。近年の企業には、ワークライフバランスの充実女性の活躍が求められています。ジョブリターン制度の導入により「退職した従業員を大切にする」というイメージを周囲に与えられるだけではありません。

社内には、家庭と仕事の両立に不安を持っている従業員がいるはずです。
「一度辞めても復職できる」という選択肢があれば、家庭と仕事の両立に不安を持っている従業員に対しても、安心感を与えられます。

ジョブリターン制度の導入により、社内外に対するイメージアップにつながるのです。

ジョブリターン制度を実施することのデメリット

ジョブリターン制度を実施することによるデメリットとして、以下の2つが挙げられます。

・安易な退職を誘発する


・現職の従業員が不満を感じる

ここでは、それぞれのデメリットについて解説します。

安易な退職を誘発する

ジョブリターン制度を実施した場合、安易な退職を誘発する可能性があります。「一度辞めても復職できる」という選択肢があることは、確かに従業員に対して安心感を与えられます。

しかし、安心感が悪い方向にいった場合「辞めても再雇用してもらえばよい」と考える従業員がでてきてもおかしくないでしょう。その考えにより、安易に退職を選んでしまう従業員がでてくるかもしれません。

安易な退職を防止するには、ジョブリターン制度を活用する条件を設定する必要があります。「家族の事情による退職」「勤続年数3年以上」といった条件を設定すれば、安易な退職を防止できるでしょう。

従業員が不満を感じる

ジョブリターン制度を実施した場合、既存従業員が不満を感じる可能性があります。ジョブリターン制度により一度退職した従業員が再雇用された場合、既存従業員と待遇が同等以上になるケースがあります。

在籍して頑張っている従業員にとって、そのような扱いを素直に受け入れることは簡単ではありません。自社や制度に不満や不信感を持つだけではなく、人間関係にも亀裂が生じる可能性が考えられます。

従業員の不満や不信感を回避するためには、不公平感がでないような待遇や基準を定めることが大切です。勤続年数や離職期間、能力に応じた待遇を設定することはもちろん、契約社員や短時間勤務といった雇用形態の選択肢を増やすことも、従業員の不満や不信感の回避につながります。

ジョブリターン制度を導入する際の注意点

ジョブリターン制度を導入する際の注意点として、以下の4つが挙げられます。

・再雇用のルールを明確にする


・子育てや介護と両立できる環境を整備する


・不公平感が出ない制度を制定する


・企業と退職者がつながる手段を確保しておく

ここでは、それぞれの注意点について解説します。

再雇用のルールを明確にする

ジョブリターン制度を導入する際は、再雇用のルールを明確にすることが大切です。

たとえば、退職理由を介護や妊娠、出産、配偶者の転勤といった家族の事情によるものに限定したり、勤続年数3年以上の者にのみ制度を利用できるルールにしたりといったことが挙げられます。

具体的には、以下のルールを明確にすると良いでしょう。

・利用対象となる勤続年数


・退職の理由


・退職前の評価


・離職期間


・懲戒処分の有無


・再雇用フロー


・雇用形態


・教育期間

このようなルールを明確にすれば、安易な退職の誘発や、従業員の不満や不信感を回避できます。

子育てや介護と両立できる環境を整備する

子育てや介護と両立できる環境を整備することも大切です。育児や介護は、年単位の期間が必要です。そのため、再雇用時にも育児や介護をしながら仕事をしなければならない人もいるでしょう。

このような人は、ほかの従業員と同様の時間で勤務することは困難です。ほかの従業員と同様の時間や労働時間で評価されるような評価制度になっていた場合、再雇用したのにもかかわらず、再度退職してしまうことも考えられます。

そのため、短時間勤務やリモートワークといった多様な働き方ができる制度をつくるほか、時間単位での生産性を評価基準とするような評価制度を整備する必要があります。育児や介護との両立が必要な従業員が安心して働けるような環境を整備することが大切です。

不公平感がでない制度を制定する

再雇用した従業員と既存従業員とで不公平感がでない制度にすることも大切です。前述したように、再雇用した従業員の方が既存従業員よりも待遇が良い場合、既存従業員から不満や不信感がでてきます。

待遇に対する不満や不信感を回避するためには、再雇用時の給与設定や昇進条件を慎重に検討する必要があります。能力にもよるものの、既存従業員のことを考えた給与設定や既存従業員を優先的に昇進させるといった配慮をすれば、不満や不信感を回避できるでしょう。

在籍している従業員の貢献を尊重することが大切です。

企業と退職者がつながる手段を確保しておく

企業と退職者がつながる手段を確保しておくことにより、退職者がスムーズに復職できます。退職者の住所や連絡先を管理しておき、企業側から定期的に案内をだせば、社会復帰の際や転職時に自社を選んでもらえる可能性が高くなります。

ジョブリターン制度を導入していることを社内外に周知することも大切です。コーポレートサイトやSNSなどで周知すれば、社内外問わずに周知できます。わかりやすい内容で記載することはもちろん制度に対する質問や連絡手段についても明記しておけば、より理解が深まるでしょう。

ジョブリターン制度を導入している企業

ジョブリターン制度は多くの企業で導入されており、その方法は多種多様です。どの企業も自社の業務の特性を分析したうえで、自社に適した利用条件を定めています。ここでは、2つの企業の導入事例を紹介します。

株式会社ニトリ

株式会社ニトリは、家具をメインとした製造物流小売業を手掛ける会社です。ニトリは、社員が働きやすい環境づくりの一環として2014年に「ジョブ・リターン(再雇用)制度」を導入しました。

出産や育児、介護などのやむを得ない事情やキャリアアップを理由に退職した従業員に、培った知識や経験、スキルを生かして再び活躍してもらうことを目的としています。

ニトリは、応募資格を明確にすることにより、活用しやすい制度にしています。ニトリホールディングスやニトリ、ホームロジスティクスで働いていた総合職社員・エリア限定総合職社員を対象とし、以下の項目を条件にしました。

・総合職社員、もしくはエイリア限定総合職社員として2年以上勤務経験があること


・退職時の理由が、結婚・出産・育児・介護などのやむを得ない事情や転職・留学などによるキャリアアップであること


・退職後、15年以内であること


・心身ともに健康であること

それにより、2014年には3名、2015年には2名の再雇用を実現しています。

引用:株式会社ニトリ「ジョブ・リターン

帝人株式会社

帝人株式会社は、繊維事業を営む会社です。帝人は、新たな価値を創造し続けられる企業風土の醸成やダイバーシティ&インクルージョン推進、多様な働き方の実現を目的として、2007年からジョブリターン制度「Hello-Again」を導入しました。

ニトリと同様に、応募資格を明確にすることにより、活用しやすい制度にしています。帝人や帝人ファーマで働いていた人を対象とし、以下の項目を条件にしました。

・退職時の理由が、結婚・出産・育児・介護・配偶者の転勤などであること


・退職後、10年以内に退職事由が解消していること


・雇用形態は正社員とすること

それにより、2021年度末までに14名の再雇用を実現しています。

引用:帝人株式会社「ダイバーシティ&インクルージョン

まとめ

ジョブリターン制度とは、育児や介護といったやむを得ない理由により退職した人を再雇用する仕組みです。企業の労働力不足や人材不足を解消する方法として、注目を集めています。ただし、効果的な制度にするためには、再雇用のルールを明確にしたり、不公平感がでない制度を整備したりといった対策が必要です。

BNGパートナーズでは、ワークライフバランスの推進に積極的に取り組んでいる多くの企業と取引があります。ジョブリターン制度の導入を検討している企業で働きたいとお考えの方は、お気軽にご相談ください。