兼業とは?副業との違いやメリット、デメリット、すべき事を解説

「兼業とはどのようなことを指すのだろうか」

「兼業と副業にはどのような違いがあるのだろうか」

と気になりませんか。

仕事における兼業や副業の概念は、単なる収入増加の手段にとどまらず、キャリアの多角化や自己実現の観点からも重要視されています。この記事では、まず基本的な概念である「兼業とは何か」についての解説から、副業との違いや会社で兼業や副業を解禁する場合のメリット・デメリット、副業や兼業制度を社内で開始する際に考慮すべきポイントについて詳しく解説していきます。

兼業とは?

兼業とは、1つの主たる職業や仕事に加えて、別の職業や仕事を同時に行うことを指します。たとえば、会社員としての本業の傍らで、個人事業主としての活動を行うことが兼業の一例です。兼業を行うことで、収入の多角化やスキルの獲得、キャリアの拡大などが期待されます

兼業と副業の違い

兼業と副業の違いに関して、両方とも本業以外の仕事を指しますが、いくつかの違いがあります。

兼業は、本業と同じくらい重要視され、本業に費やすような時間やエネルギーが期待されます。兼業の場合、本業と同じくらいかそれ以上の所得が得られる場合があります。また複数の仕事を同時に行うことで、収入を増やしたり、スキルを活かしたり、キャリアを拡大したりすることを意図しています。

一方で、副業は兼業とは異なり、主に追加の収入を得ることを目的としており、趣味や興味に基づいた活動や、本業とは異なるスキルや経験を得られることもあります。

このように、兼業と副業には、本業との関係性や時間とエネルギーの投入、所得の比重、目的と意図などの違いがあります。ただし、法律や行政の解釈的には両者に大きな違いがないということも認識しておく必要があるでしょう。厚生労働省のガイドラインに関しても「副業・兼業の促進に関するガイドライン」とタイトルがつけられており、両者を区別してはいません。あくまでもニュアンスの差で、明確な違いはなく運用されているケースも多いということです。

参考:厚生労働省 副業・兼業の促進に関するガイドライン

兼業解禁が盛んになった理由は働き方改革

兼業解禁が盛んになった背景には、政府の働き方改革があります。従来、一つの会社での終身雇用が主流であった日本の労働市場において、働き方の多様化と柔軟性の確保が求められるようになりました。

政府の働き方改革は、労働時間の柔軟化や、副業・兼業を促進する政策を含んでいます。これは、個々の労働者が自身のスキルや経験を活かして働きやすい環境を整えることで、生産性の向上や労働者のワークライフバランスの改善を図るためのものです。その一環として、厚生労働省が2018年に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、労働者が安心して副業・兼業に取り組める環境を整備しています。このガイドラインは、副業・兼業を希望する労働者が増加傾向にある中で、労働時間管理や健康管理についての指針を示し、個人が自身の働き方を選択しやすい社会を目指しています。

参考:厚生労働省 副業・兼業の促進に関するガイドライン

こうした働き方改革の推進により、労働市場がより柔軟で多様な働き方を受け入れるようになり、個人のキャリア形成やライフスタイルに合わせた働き方が実現しやすくなっています。

兼業や副業に積極的ではない企業が存在する理由

兼業や副業に関して、政府が積極的に推進する一方で、積極的ではない企業が存在します。

その理由は、以下の通りです。

  • 安全配慮義務違反になるリスクがある
  • 利益相反する可能性がある
  • 情報漏洩がおこる可能性が高まる

それぞれについて解説します。

安全配慮義務違反になるリスクがある

兼業や副業を解禁することにより、安全配慮義務違反になるリスクがあり、企業は導入をためらう傾向にあります。政府の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」でも、労働契約法5条の安全配慮義務違反にならないように労働者の健康状態の把握義務について解説されています。

参考:厚生労働省 副業・兼業の促進に関するガイドライン

もし副業や兼業でアルバイトを認めていた場合、社員が健康を害するような状況に遭遇した際には、アルバイト先と正社員として雇用している企業の両方が安全配慮義務違反の可能性があるかもしれない、ということです。

利益相反する可能性がある

副業や兼業を行う際には、正社員として雇用されている企業との利益相反が生じる可能性があることに注意が必要となります。この問題は競業避止義務違反として知られています。労働者が本業と同じ業務を副業や兼業で行う場合、その業務が直接競合する可能性があります。業務時間外に副業や兼業を行う場合でも、本業に影響を及ぼす可能性があるため、利益相反が生じることがあります。

参考:厚生労働省 副業・兼業の促進に関するガイドライン

情報漏洩がおこる可能性が高まる

企業が副業や兼業の解禁に消極的な理由の一つに、情報漏洩のリスクが高まる可能性が挙げられます。

特に、競合他社や業界秘密に関する情報が漏洩した場合、企業の競争力や業績に深刻な影響を与える可能性があります。このような情報漏洩リスクを抑えるために、企業は副業や兼業を制限または禁止する場合があります。

兼業を解禁するメリット

企業が兼業を解禁するメリットは、以下の通りです。

  • 社員のスキルがアップする
  • 社員の人脈が広がる
  • 社員のモチベーションアップ
  • 企業イメージの向上

それぞれについて解説します。

社員のスキルがアップする

企業が兼業を解禁するメリットとして、社員のスキルアップが挙げられます。

兼業を許可することで、社員は本業とは異なる分野で新しいスキルや経験を身につける機会を得られます。趣味や関心のある分野で副業を行うことで、プログラミング、デザイン、マーケティングなど自己成長やキャリアアップにつながる新たなスキルを身につけることができます。さらに、兼業で得た知識や経験は、本業にも活かされれば、会社全体の業績向上やイノベーションに貢献することも期待されます。

社員の人脈が広がる

兼業を解禁する企業側のメリットとして、社員の人脈が広がるという利点があります。副業や兼業を行うことで、他の業界や分野の人々と交流する機会が増えます。

こうした交流を通じて、社員は新たなコネクションを築き、業界全体のトレンドや動向についてより深く理解することができます。異なるバックグラウンドや専門知識を持つ人々との交流は、創造性や新たな発想を生み出す源となります。

社員のモチベーションアップ

副業や兼業を解禁することにより、社員のモチベーションをアップすることができます。副業や兼業は、社員が自らの興味や情熱を追求する場を提供します。自分の好きなことや得意なことに時間を費やすことで、充実感を得ることができます。

企業イメージの向上

副業や兼業を解禁することにより、企業イメージが向上する可能性があります。副業や兼業の解禁は、企業が柔軟な働き方を受け入れる姿勢を示すことにつながります。

このような姿勢は、従業員や将来の候補者にとって、企業が自分の個人的なニーズやライフスタイルに対して理解を示していることを示唆します。

副業を解禁するデメリット

副業を解禁するデメリットは、以下の通りです。

  • 労働時間の把握義務を果たせるかどうか分からない
  • 社員が本業に専念できなくなる
  • 業務の透明性が下がる
  • 残業代の支払いで他の企業と揉める可能性がある

それぞれについて解説します。

労働時間の把握義務を果たせるかどうか分からない

副業や兼業を解禁すると、労働時間の把握義務が果たせるかどうか分からないというデメリットがあります。厚生労働省によると、2019年4月から雇用主に対して、労働時間の把握義務が課せられています。

また、労働基準法38条1項では、事業場を異にする場合も労働時間の管理をする必要性があるとされています。

つまり、雇用主は、自社での労働時間を把握するだけではなく、他社での就業時間を把握する必要があるということです。

実務上、副業先の労働時間を把握することは困難を極めるため、雇用主が義務を果たせるかどうかは分からないという問題が残ります。

参考:厚生労働省 2019年4月施行 客観的な記録による労働時間の把握が法的義務になりました

   厚生労働省 副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第38条第1項の解釈等について

社員が本業に専念できなくなる

副業や兼業の解禁により、社員が本業に専念できなくなるリスクが生じるかもしれません。 副業や兼業を行うことで、社員の時間やエネルギーが複数の仕事に分散される可能性があります。その結果、本業に対する集中力や効率が低下し、業務の品質や生産性が損なわれるおそれがあります。

業務の透明性が下がる

副業や兼業を行うことで、業務の透明性が低下するリスクが生じる可能性があります。

業務の透明性とは、組織内で行われる業務やプロセスが関係者にとって理解しやすく、可視性が高い状態を指します。副業や兼業によって、この透明性が損なわれることがあるのです。

副業や兼業をしている従業員が、本業のチームメンバーや上司とのコミュニケーションを怠ることがあります。その結果、帰属意識が低下し、本業に全力を尽くす意欲が減退してしまうかもしれません。業務に関する情報が適切に共有されず、チーム全体での情報収集や意思決定が円滑に行われないことで、業務の透明性が損なわれる可能性があります。

残業代の支払いで他の企業と揉める可能性がある

副業や兼業を解禁することで、どちらの企業が残業代を支払うかに関する問題が生じる可能性があります。たとえば、A社で8時間働いた後にB社で2時間アルバイトをする場合、B社はその2時間に対して割増賃金を支払う義務が生じます。正社員の場合、通常は8時間労働の契約を主とするため、定時後に残業代が発生する可能性が高くなります。

一方で、短時間のパートアルバイトを雇用する従業員の場合、どちらが支払うかで揉める可能性があります。たとえば、企業Aで1日あたり4時間の労働契約を結び、企業Bで5時間の労働契約を結んでおり、週当たりの出勤日数が定まっていないケースです。原則として、残業をさせた企業が割増賃金を支払うことになりますが、シフトによりB企業で午前中から5時間勤務、その後、午後から4時間Aで勤務した場合、午後から勤務したAが1時間分の残業代を支払うことになります。

法律的には、最終的に8時間を超える部分を労働させた企業が残業代を支払う仕組みになっていますが、多くの場合、自社の従業員が他の企業でどのように働いているかを把握することが難しく、いきなり残業代を請求されても、感情面では納得がいかないという状態になる可能性があります。

パートアルバイトが主体の企業の場合、残業をすることが前提となっていないことが多く、36協定すら締結していない可能性があります。36協定が締結されていないにも関わらず残業をさせてしまうと、その時点で労働基準法違反となり、書類送検など法的なリスクを負うことになります。

参考:厚生労働省 副業・兼業の促進に関するガイドライン」 Q&A

   厚生労働省 労働基準法違反の疑いで書類送検

副業や兼業を解禁する前に企業がすべきこと

副業や兼業を解禁する前に企業がすべきことは、以下の通りです。

  • 副業や兼業には届をだして、許可を得る形式にする
  • 副業や兼業での労働時間を報告してもらう
  • 就業規則を改定する

それぞれについて解説します。

副業や兼業には届をだして、許可を得る形式にする

副業や兼業には届をだして、許可を得る形式にしましょう。どの従業員が副業や兼業をしているのかを把握することにより、会社はその活動が自社の業務や利益に与える潜在的なリスクを知ることができます。

副業や兼業での労働時間を報告してもらう

副業や兼業を行っている従業員には、労働時間を報告してもらいましょう。会社は従業員の労働時間を把握し、適切な労務管理を行うために、定期的な報告が重要です。

報告の頻度や方法は会社の方針に従い、月次報告や週次報告などが一般的です。従業員には、副業や兼業での労働時間を記入した報告書を提出してもらうようにしましょう。

就業規則を改定する

副業や兼業を解禁する前に、労組や従業員代表と協議の上、就業規則を改定するようにしましょう。たたき台を人事や総務で作成し、労組や従業員代表の意見を聞きます。その上で最終的な就業規則を作成し、就業規則本体2部と、就業規則変更届出書、意見書を添付します。

なお、就業規則に関しては必ず2部用意することをおすすめします。1部は労働基準監督署が預かり、もう一部は会社側で保管しましょう。

参考:厚生労働省 労働基準監督署への届出書類

まとめ

今回は、副業や兼業についての理解を深めるために、それぞれの概念や違いについて解説しました。

副業と兼業の違いについては、主に所得や重視される仕事の違いがあります。また、兼業解禁の背景には働き方改革があり、労働市場の柔軟性や多様性の向上が求められています。一方で、副業や兼業を解禁する際には、企業側が考慮すべきリスクや課題も存在します。たとえば、安全配慮義務違反や利益相反、情報漏洩のリスクなどが挙げられます。そのため、副業や兼業を解禁する際には、労働時間の管理や従業員の報告、就業規則の改定など、適切な対策を講じることが重要です。

最終的には、従業員のニーズや企業の状況に合わせて、副業や兼業の解禁を検討し、円滑な運用を目指すことが重要です。BNGパートナーズでは、企業のさまざまなニーズにお応えできる優秀な人材を紹介しています。興味のある方はぜひ、お声掛けください。

企業の人事担当者・責任者の方へ

監修者

人事コンサルタント
髙橋弘樹

約10年の人事労務・採用経験を持ち、製造業や自動車メーカーのグループ企業など4社で活躍。キャリアアドバイスや人事・労務・採用の幅広い実績をもつ。現場での第一線の経験を活かし、充実したキャリアの構築を支援している。