【前編】クラウドワークス・吉田浩一郎 × BNGパートナーズ・蔵元二郎|売上1,000億、営業利益100億を見据えて。切れ目のない挑戦と成長を支え、加速させるCxO人材

圧倒的な成長スピードをもってして、“個のためのインフラになる”というミッションの実現にひた走る株式会社クラウドワークス。行政とタッグを組んだ施策も多く打ち出し、“インフラ”としての存在価値を確立しつつありますが、同社の創業者であり、代表取締役社長 兼 CEOを務めるのが吉田浩一郎氏です。

ノンストップの成長を続けるクラウドワークス社が、近い未来に見据えるのが売上1,000億、営業利益100億という組織の姿。その目標地点に向け、クラウドワークスではどのような人材戦略を採り、成長を重ねているのか。吉田氏と20年来の友人でもあるBNGパートナーズ代表・蔵元二郎が迫ります。

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フェーズの前進ごとに、社内に新風を吹き込む人材を

蔵元:吉田社長とは20年以上のお付き合いになります。クラウドワークスの歩みも創業当初から拝見していますが、御社の成長はノンストップ。一方、その驚異的な成長の裏で、あらゆるご苦労もされているはずです。そこでまずは、御社の成長を支える“ヒト”について聞かせてください。2011年の創業から約3年にして上場され、次々と新規事業を成功させているクラウドワークスでは、どのような人材戦略を採られているのか。

吉田:創業から現在に至る大きな流れのなかで言うなら、会社が新たなフェーズに前進するタイミングごとに、それまで社内に全く存在しなかったような人材を招き入れてきましたね。創業はゼロからのスタート。実行力はもちろん、あらゆる理不尽に立ち向かうストレス耐性も持ちながら、何が何でもやり遂げる。特にうちに関しては「クラウドワークス」というサービスただ一つ、いわば、一本足打法で上場していますから。

それが上場企業という第二のフェーズに進んだからには、新規事業が必要になります。新規事業を立ち上げ、再現性を確立しなくてはならない。そのタイミングに招き入れたのが、大企業の部長や役員クラスの人材です。事業の執行力が高かったり、ビジネスモデルの構築に長けていたり、言うなれば、ビジネスの実行が大好きな人たちです。そして、私たちは創業から5年の2019年を第三期のスタートとして位置づけています。

世間的には成熟期とも呼ばれるフェーズですね。成長を鈍化させることなく、さらに飛躍するにはどうすればいいのか。その一つとしてM&AやIRのケイパビリティのある人材を招き入れましたが、ここで新たな風が吹いた。そのキーマンが伊藤潤一です。金融の知見をもとに人材を評価する独自のアイデアが、社内を大いに活性化させています。

蔵元:フェーズごとに全く違う人材を招き入れ、新たな風を吹き込む。これはどの企業においても重要ですが、吉田社長を見ていて思うのが、人材獲得の動きが速く、なおかつ回転も速い。多くの企業が6年で歩むところを3、4年でパッとやってみせる。クラウドワークスの新規上場が早かったのも動きの速さ、つまりは積極性があるからであり、その積極性があるからこそ、ケイパビリティに厚みが生まれているのかな、と。

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イノベーションを生み出す“Be Agile”の姿勢と文化

吉田:ケイパビリティに関して言えば、私自身が組織崩壊の危機に直面したことが大きかったと思いますね。第三期の具体的なビジョンとして“生産性向上”を掲げ、そのフェーズをスタートさせた前年、2018年のことです。新規事業をいくつ立ち上げても軌道に乗らないばかりか、幹部と私の間にも軋轢が生まれ、組織崩壊も同然。こうなってしまったからには、うまくいっている従業員の価値観を採用してみよう、と。

その指標にしたのが、いわゆるエンゲージメントスコアです。組織崩壊の時点では、従業員全体のレーディングがCCCの状態でしたから。ここから立て直すべく、まずは従業員にチームを組んでもらい、チームごとに半年をかけてマネジメントと事業の推進を任せました。結果、半年後にAAAのスコアを取得したチームが5つ。この5チームのリーダーに集まってもらい、彼らの価値観を会社の価値観にしよう、と。

おもしろいことに、集まった5人のリーダーは職種がバラバラ。営業が二人の、開発、デザイン、ユーザーサポートといった顔ぶれでしたね。職種はバラバラの一方、彼らに共通していた価値観が、本人に意思があるなら、本人の意思を100%尊重すること。新卒採用者だろうが、IT未経験者だろうが、意思があるなら寄り添い、その従業員に適切な目標と期限を立て、5人のリーダー全員が伴走するようにサポートする人材でした。

正直なところ、めちゃくちゃ衝撃的でしたよ。私自身は縦社会の営業畑で、「言われたとおりにやれ!」というマネジメントの下にたたき上げられた人間ですから。彼ら5人に共通していた価値観は、それとは正反対も同然です。しかし、その結果はスコアとして明確に表れ、従業員の信頼も厚い。この成果は疑いようがなく、彼らの価値観をもとに生まれたのが“Be Agile”という姿勢であり企業文化です。

蔵元:Be Agile。直訳するならば、『機敏であれ』ですか。

吉田:機敏であるのと同時に、あらゆる前提条件を排除し、自分が権限を持って進める、という意味を持たせています。従業員の意思を100%尊重し、機敏にビジネスを実行してもらうためには、社会や会社にある前提条件が邪魔になることもあるじゃないですか。社長である私の発言だって、その一例です。社長に従うことが前提条件としてあっては、意思は尊重されない。意思があるなら、私の言うことも外してもらって構わない。

そうした“Be Agile”の姿勢を社内に浸透させていった結果、確実に成果が生まれています。例えば、うちの粗利の半分以上を稼いでいる「クラウドテック」という事業は、立ち上げの2015年から3年くらいは、私は基本的にノータッチ。それにうちではコロナ前の2019年からフルフレックス・フルリモートという働き方を採用していますが、これも私が提案したことではありません。私としてはむしろ、懐疑的でしたから(笑)。

それでも私は“Be Agile”の下に、前提条件を排して考えてもらうことを従業員と約束しています。懐疑的に感じつつも従業員の意思に任せたところ、コロナ禍をきっかけに、社会の動きが追いついてきた。この一件のように、今は解せないけれど、まずは任せてみるという取り組みを繰り返した結果、新たなケイパビリティが身につき、組織の厚みが増している。うちの会社は今、創業以来、最高の状態だと自負できるくらいです。

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未来のためではなく、「今、納得がいく」という価値観

蔵元:吉田社長のお話から、回転の速さの理由が見えてきますね。それは言い換えれば、変化の早さ。フルフレックス・フルリモートの件が指し示すように、しっくり来てはいない、心から承諾できてはいないけれど、まずはパッと変化してみる。個人的なお付き合いからしても、吉田社長は変化が好きな人です。

吉田社長は変化を好み、同時にカオス耐性が強く、猪突猛進でもある。この社長の姿勢が結果的に、クラウドワークスという企業のDNAになっている。そして、変化をいとわないことは経営者に求められる資質の一つですが、一方、自分とは異なる価値観を受け入れることに対し、ここでつまずく経営者は少なくありません。

吉田:これはもう、私自身の変化とは切り離しても、社会が大きく変容していますよね。となれば、自分にない価値観を受け入れざるを得ない。昔は納得がいかなくとも我慢して働いていれば、年収が伸びるとか、家が買えるとか、車が手に入るとか、一定の希望があったはずです。でも、今は違う。未来に対する価値観はさまざまであり、モノを所有することが価値とも限らない。だからこそ、働き方も大きく変化を始めています。

そうした時代に会社を経営するのであれば、何よりも今が重要です。未来の納得のために我慢するのではなく、今、納得がいく、今、やり甲斐がある、今、貢献できる。すると、ちょっとした納得のいかなさも懐疑心も批判も、率直に伝えられる企業であるほうが持続的に成長するはずです。そして、私は企業のトップである以上、従業員に求めた率直さを受け入れる。これは一昔前とは一線を画す、今だからこその価値観なのかな、と。

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率直な人材を育む“成果=結果+デンタツ”の数式

蔵元:社長にも率直にもの申せる企業であればこそ、持続的な成長ができる。おっしゃるとおりだと感じます。しかし、多くの場合、そうした率直な人材を育てることは、けっして容易ではないはずです。クラウドワークスでは“Be Agile”を企業文化として根付かせるべく、どのような人材育成をされているのでしょう?

吉田:率直な人材を育てる難しさ、それは本当に同感です。ただ、そのヒントは社会に隠れています。リクルートにしても楽天にしても、優秀な人材が活躍する企業には、会社の仕組みに全従業員が共通認識する名前が付いている。リクルートなら“リボンモデル”ですし、楽天で働く人は“スピード”という言葉を繰り返します。こうした象徴的な言葉の裏にあるのが、成功体験の枠組み化ではないか、と。

成功体験を枠組み化することにより、従業員の誰もが自覚的に実行できる環境をつくる。こうした環境が人材育成の在るべき姿であり、この環境を整えるために必要なのが文書化です。一つの成功を属人化させず、誰もが読むことができ、誰もが理解できる形に文書化する。この取り組みをクラウドワークスでは“ポリシー化”と呼び、ポリシー化するための方法論を“成果=結果+デンタツ”という数式で表現しています。

つまりは、結果を出しただけでは成果ではない。結果を従業員の誰もが理解できる形に残せたとき、そこで初めて成果として認められるシステムです。このシステムは間違いなく人を育てます。社長の私が言うのもおかしな話ですが、自身の成功を枠組み化できれば、それは転職にも生きる。つまりは従業員一人ひとりの市場価値が上がります。こうした仕組みを徹底していけば、おのずと率直な人材が育まれていくはずです。


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