【前編】リブ・コンサルティング・関厳 × BNGパートナーズ・蔵元二郎|自社のステージを正しく理解できているか—— スタートアップの採用、その課題と公式

2022年11月、日本政府は「スタートアップ育成5か年計画」を策定。2027年度を目処に、スタートアップへの投資額を22年の約10倍、10兆円に引き上げる目標を掲げています。しかし、スタートアップ企業が成長を遂げるには、優秀な人材の獲得が欠かせません。

では、スタートアップの人材採用にはどのような課題が存在し、その解決にはどんな取り組みが必要なのか?

2012年にコンサルティング会社を起業され、従業員300人規模の組織へと成長させた、株式会社リブ・コンサルティング代表取締役の関厳氏、BNGパートナーズの代表として、あらゆる採用事例を知る蔵元二郎の対談から明らかにします。

同時に来る、スタートアップ市場の活況と高度人材の不足

蔵元:そもそもの話として、日本はリスクマネーの供給が海外に比べて少ない。そうした前提はあるにしても、国内のスタートアップ市場が成長傾向にあることは間違いない。同時に、政府の掲げた目標とは切り離して考えても、今後の伸びも間違いない。昨今、アメリカのSaaSバブル崩壊の影響から多少の鈍化は見られるものの、これも一時的なものに過ぎない。スタートアップの今後について、私はこう見ていますが、関さんはいかがでしょう?

関:私も蔵元さんと同じように見ています。今後もスタートアップの市場規模は拡大を続け、相当な大きさになっていく。すると、業態の多様化が生じるはずです。現時点に関しては、投資が集中する業態に一定のトレンドがありますよね。最近はSaaSに集中していたバブルが崩壊。今後はより、ディープテックに注目が集まるはずです。

そして、市場規模の拡大が進むにつれ、投資家はさまざまな業態に目を向けるようになります。投資家の目線に呼応して、スタートアップの成長角度も多様化していく。とても興味深いことですが、問題はそこではなく別のところにあると考えます。

成長が見込まれるディープテックは、非常に専門的な領域だけに、ここを掘り当てたスタートアップは海外にも出て行けます。ただ、事業を成長させるには、当然、創業メンバーだけでは難しくなる。そこで、非常に専門性の高い企業の脇を固められるだけの人材が確保できるのか。問題はそこではないか、と。

蔵元:私の考えも全く同様です。市場の流れとして、スタートアップへの投資は増えていく。しかし、ここに立ちはだかるのが少子化。これは出口の見えない日本の課題です。すると、キャッシュは増えても人は増えない。こうした人材不足を補うべく、最近ではCXOをシェアするような事例も浸透してきましたが、今後はさらなる工夫が必要になります。

にもかかわらず、この事態に気づいていない経営者がいることも事実です。それが顕著なのが、ベンチャーと呼ばれる世代の方ですね。資金調達、マーケティング、そして人材獲得。ここに優先順位は存在せず、本来は、すべてが同列に重要視されるべきです。

業態によって多少の差はあっても、資金調達、マーケティング、人材獲得の三つは、すべてが外すことのできない三本の矢。特に人材獲得に関しては「人材会社にちょっとフィーを多めに払えば、優秀な人材を得られるのではないか」と考える経営者も見受けられます。しかし、今は人材獲得競争の時代です。お金だけでどうこうできる話ではありません。

関:この事態に、なぜ気づけないのか。これには急激なインフレが関係しているように思います。お金の価値が急落する一方、出口の見えない少子化により、人の希少性は急騰している。どんな経営者も「人が大事」ということは理解しているはずなんです。しかし、既存課題である少子化に急激なインフレが重なり、人とお金のバランスが一気に崩れてしまっている。そうした状況に認識が追いついていないのではないか、と。

成功体験が仇になる。経営者兼執行者から次のステージへ

蔵元:では、スタートアップ企業についてはいかがでしょう? 関さんご自身もリブ・コンサルティングを起業され、成長させ、スタートアップ企業のコンサルに従事される機会も多いはずです。スタートアップの人材採用には、どのような課題が生じやすいのか。

関:自社が今、どういったステージにあるかを正しく理解できないことが生じやすい課題ではないでしょうか。組織が直面する壁として、俗に「30人の壁・50人の壁・100人の壁」と言われますよね。30人程度の組織であれば、サービス開発も資金調達も人材獲得も、経営者個人の力がすべてです。しかし、そこから先。30人の壁を突破しようとすると、そうはいかない。

採用にフォーカスするなら、最初のうちは事業への熱意や自分が持つコネクションによって、優秀な人材が獲得できます。ただ、そこから上を目指すためには、今あるネットワークを拡張させなければいけない。すると当然、人材の新規開拓が必要です。

ここで起きる障害の一つが、経営者個人の力によって企業を成長させられた成功体験です。さらなる成長を望むのであれば、従来の成長戦略から階層を飛び出して、戦略のステージを変えなければいけない。にもかかわらず、経営者自身が自らの力を過信しすぎてしまうのかもしれません。戦略のステージを切り替えられないままでは、どんなに一生懸命でも成長は鈍化します。

蔵元:これも同意ですね。おっしゃる通りだと感じます。僕なりの表現をするなら、創業時のトップは経営者兼執行者。しかし、そこから30人・50人・100人の壁を突破するには、経営者は経営に専念して、新たに自分より有能な執行者を雇う必要があります。経営と執行は別の仕事であることを理解しなければ、次のステージには進めないと考えます。

それを理解できないままに組織を拡大しようとすると、問題が生じます。経営と執行という役割分担が整理できていないため、成長のために必要な人物像が明確にならない。どうにか優秀な人材を招き入れられても、経営者自身が執行の役割を捨てきれず、新たな人材をマイクロマネジメントしてしまう。これでは、せっかくの人材も機能しません。

採用も然り。“土俵際の相撲”は適切な判断を鈍らせる

関:人は見たことのない景色を理解できないため、”組織の壁”を知らなければこの問題はどこかのタイミングで起きるでしょう。特に学生起業のような場合、その組織のトップは大企業を経験したことがありません。これはもう、かのスティーブ・ジョブズさえも同様ではないでしょうか。ジョブズは一度、Apple社を追い出されていますよね。

その後、組織が整理された後に復帰したジョブズは「官僚化された組織を壊す」文脈で評価されていますが、別の側面から見れば、彼は拡大する組織のステージになじめなかった。どんなに優秀な人であっても、見たことのない景色は理解できないんです。

それでも成長を続けるには、人を増やさなくてはいけません。そこで、僕自身のつまずきとしては、100人の壁を突破しようとするタイミングでしたね。組織を成長させるため、共に組織の仕組み作りを担ってくれるような、非常に優秀な人材を採用したんです。

僕としては共に仕組みづくりがしたいのに、彼はもう一つ上のステージの認識にあり、社内に不協和音が生じてしまった。自社のステージを細かく見極めないと、先んじた採用によってつまずいてしまう、採用タイミングの難しさがあると感じました。

蔵元:そうした状況を招いてしまう理由の一つが焦りですよね。これはちょっとふざけた例え話ですが、クリスマス直前に焦って恋人を作っても、クリスマスが終わるころにはサヨウナラ、という残念な結果になってしまうのと同じです(笑)。人は追い込まれると「この人がほしい、求めている人である、懸念点はあるけれどきっと問題にはならないはずだ」という「希望バイアス」が働き、冷静な判断が難しくなります。

関:なるほど、言い得て妙ですね(笑)。追い込まれると状況判断を誤るのは、営業にも顕著なことです。追い込まれるあまりに面倒な案件を取ってしまい、結果的に全体効率を悪くしてしまうという。そして、経営において常に冷静な判断をすることの重要性を説いたのが、稲盛和夫さんの哲学である「土俵の真ん中で相撲を取る」ではないでしょうか。

僕自身も経験したように、自社が今いるステージを正しく理解し、適切に舵を切ることは容易ではありません。ただ、稲盛氏の哲学のように、あらゆる文献に答えが示されている。これはステージを理解し、舵を切ることに関しても同様です。その手がかりとなる公式を知っていれば、つまずきはしても乗り越えられる。経営者には、常に学びが必要です。


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