労働安全衛生法とは、事業主が労働者の健康や安全を守り、快適に仕事ができるよう配慮するための法律です。同法律を守らないと、労働者が快適かつ安全に過ごせないのはもちろんのこと、事業主が罰せられる可能性もあるでしょう。
そこで当記事では、労働安全衛生法の概要をはじめ、遵守ポイントや罰則内容などをわかりやすく解説します。
労働安全衛生法について理解を深めたい担当者は、ぜひ参考にしてください。
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労働安全衛生法とは?
労働安全衛生法とは、労働者の健康と安全を保ち快適に働いてもらえるよう、企業に対して定められた法律です。
企業が守るべき内容や、違反した際の罰則などが記載されています。従業員と企業の双方が、安心して働くための取り決めだと言えるでしょう。
労働安全衛生法が導入された背景
労働安全衛生法は1972年に制定された法律であり、労働基準法から派生しました。
当時はいわゆる高度経済成長期であり、各地で大規模工事が行われ、職場環境にも多くの変化が見受けられた時代です。
労働によるケガ人が発生し、さまざまな変化に伴い不安を抱える人も見受けられました。
そこで、労働者の心身における安全や健康を確保すべく、労働基準法から独立する流れで「労働安全衛生法」が導入されます。
近年では「精神面の不調を抱える人」の増加や、健康経営を重視する時代背景なども相まって、労働安全衛生法への注目度が高まっています。
対象となる事業者
労働安全衛生法の対象となるのは、事業を行い労働者を雇用している事業主です。法人はもちろんのこと、個人事業主も第三者を雇用していれば対象になります。
誰も雇用せず1人で仕事をする場合には、法人であっても労働安全衛生法の対象外です。
また従業員を雇用していても、以下のような労働者を使用する場合には、労働安全衛生法は適用されません。(※労働安全衛生法の一部分のみ、対象になるケースあり)
・船員 ・国家公務員(国会議員、裁判所職員、防衛省職員など) ・非現業の国家公務員・地方公務員(市バスの運転手、市役所の清掃員など) |
対象となる労働者
労働安全衛生法の対象となる労働者は、企業などの事業主と雇用契約(または労働契約)を結んだうえで業務を行う人です。
正社員のほか、契約社員・アルバイト・パートも対象です。
一方、雇用契約(または労働契約)を交わしていない従業員は、労働安全衛生法の対象に含まれません。具体例を挙げると、代表取締役・取締役・業務委託契約者などです。
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労働基準法や労働安全衛生施行令・労働安全衛生規制との違い
ここでは、労働安全衛生法と混同されがちな政令や省令について、違いを解説します。
それぞれの違いは以下の通りです。
労働基準法との違い
先述の通り、労働安全衛生法は「労働基準法から派生」した法律です。
労働基準法では、事業者が守るべき労働条件について、最低限の内容(労働時間・賃金・休日など)が明記されています。
一方で労働安全衛生法は、労働者の健康と安全を守るのが目的であり、詳細な安全に関する規定を定めている点が特徴です。職場体制や健康管理の方法など、労働者の健康・安全を守ることに対して、詳細な内容が記載されています。
労働安全衛生施行令・労働安全規制との違い
「労働安全衛生法」「労働安全衛生施行令」「労働安全規制」を比較する際には、法律・施行令・規制(省令)の違いを考えてみましょう。3者には以下の違いがあります。
・法律…国会で定めた決まりであり、効力が一番強い ・施行令…内閣が定めた決まりであり、法律よりは効力が弱い ・規制(省令)…〇〇省の大臣が発する命令であり、施行令よりも効力が弱い |
効力としては「規制(省令)→施行令→法律」の順番で強くなります。
つまり、効力の強さは「労働安全衛生法>労働安全衛生施工令>労働安全規制」という順番です。
一方、記載してある内容の詳細度は「労働安全衛生法<労働安全衛生施工令<労働安全規制」の順番になります。たとえば、労働安全衛生法を見ても詳細がわからない内容は、労働安全衛生施行令をチェックすると理解できることがあります。
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2019年に労働安全衛生法が改正_4つの変更ポイント
2019年に労働安全衛生法が改正されました。
ここでは、改正時における「4つの変更ポイント」について解説します。経営者や人事担当者が知っておくべき内容であるため、担当者はぜひ参考にしてください。
労働時間の把握および保管義務
2019年の労働安全衛生法の改正によって、全ての企業に対し、従業員の「労働時間の把握」および「状況の保管義務」が命ぜられました。
把握および保管方法の例 |
・出勤・退勤をタイムカードに記録する ・ICカードを活用し、出勤・退勤時間を記録する ・(リモートワークの場合など)パソコンのログイン時間・ログアウト時間を記録する |
出勤・退勤を管理しないことは論外です。また、従業員による申告も「労働時間を正確に判断する」とは言い難いでしょう。
医師による面接指導の強化
労働安全衛生法では、長時間労働者に対し、医師による面接指導が定められています。
今までは、「月100時間以上の残業をする者」が面談の対象でした。しかし、2019年の労働安全衛生法の改正からは「月80時間以上の残業をする者」と、対象の幅が広がっています。
また、面接する医師は産業医が望ましいです。産業医を選出していない場合には、「地域産業保健センターに登録している医師」や「健康診断の機関に従事する医師」などに依頼するとよいでしょう。
産業医・産業保健機能の中立性を強化
産業医・産業保健機能を強化すべく、産業医が中立的に職務を行えるよう、以下の点が強化されました。
労働者の健康保持に向けた環境整備 |
企業は産業医に対し、従業員の労働時間などの情報を提出する従業員に向けて「産業医の業務内容」を周知する産業医が従業員の健康相談に応じられる体制づくり |
産業医による勧告 |
従業員の健康維持に必要だと判断すれば、産業医から事業所に勧告を実施できる産業医から勧告を受けた企業は、安全衛生委員会にその旨を報告する |
また産業医を解任する企業は、安全衛生委員会に対して「解任する事実および理由」の報告が義務づけられています。
健康情報取扱規定の策定
2019年の労働安全衛生法の改正では「健康情報取扱規定」の策定が義務化されました。
同規定には、従業員の健康情報を扱う際のルールを記載しています。
各自の健康情報には、プライバシーに関わる内容やセンシティブな情報が含まれることもあるでしょう。そのため、企業は適切に取得および管理しなければいけません。
個人情報の観点から、「情報漏洩や改ざん防止に向けた対策」や「保管が不要になった情報の処理方法」も定める必要があります。
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労働安全衛生法で企業が遵守すべき7つの内容
労働安全衛生法には、企業が遵守すべき内容を掲載しています。
以下の内容を守ったうえで、従業員の健康と安全を確保できるよう留意しましょう。
スタッフを所定の位置に配置(安全衛生管理体制を構築)
労働安全衛生法では、安全衛生管理体制の構築が求められています。安全衛生管理体制の構築を平たく言えば、スタッフを適切に配置することです。
たとえば「従業員が50人をこえる」事業所では、安全管理者と衛生管理者を選出する必要があります。産業医の配置も必須です。
労働災害の防止
企業は従業員の安全を確保すべく、労働災害の防止措置が必要とされています。
たとえば機械作業を行う事業所では、転倒して機械に巻き込まれるのを防ぐために「柵」を設けるなどの対策を求められるでしょう。
また火災が発生した際など、直ちに作業を中断して退避できるよう、万が一に備えた避難方法の把握および実践も労働災害の防止に役立つでしょう。
安全衛生教育の実施
安全衛生教育とは、従業員が仕事をする際に必要な「安全衛生の知識」を教えることです。
業務を遂行するうえで、安全と健康に配慮するには、企業だけではなく従業員自身が知識を身につける姿勢も必要です。
整理整頓といった基礎的な内容から、業務において発生するリスクの高いケガ・病気と予防方法などまで、多岐にわたります。
特定の就業を制限
危険を伴うような特定の仕事は、免許や資格および一定の条件を有していない人に対し、就業制限が設けられます。
~就業を制限される仕事(例)~
- クレーン車の操作
- フォークリフトの運転
- ボイラーの取り扱い
危険を伴う業務は、正確な知識を保有した者でなければ、作業が難しいでしょう。周囲の従業員への危険も伴うため、企業は適切に就業を制限します。
労働者の健康維持・促進
労働安全衛生法では、労働者の安全を確保すると同時に、健康維持・促進も行います。
たとえば、常時雇用する従業員に対し、入社時および1年に1度のペースで健康診断の実施が必要です。(※特定業務に従事する従業員は、半年に1度のペースで実施)
また、職場の適切な温度管理・使用する器具の定期的な点検なども「労働者の健康維持・促進」に該当します。
安全衛生改善計画
職場の安全および衛生を保つべく、安全衛生改善計画を立てる必要があります。計画に含める内容は以下などが挙げられます。
- 事業所で認識する安全衛生への課題・リスク
- 課題やリスクに対する対策内容
- 安全衛生に対する企業方針
また、都道府県の労働局長から改善点を指摘された場合には、改めて「安全衛生計画」を提出する必要があります。
快適な環境の提供
企業は従業員が安全かつ健康に過ごせるよう、快適な職場環境を提供しなければなりません。快適な環境とは、業務におけるストレスや疲労を最小限に抑えられるような場を指します。空調整備や清浄機の導入・システム導入によるDX化・フレックスタイム制の導入など、内容は多岐にわたります。
また、休憩施設の確保や健康器具の導入も「快適な環境の提供」に役立つでしょう。
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労働安全衛生法に違反した場合の罰則
労働安全衛生法に違反した場合には、企業に対して罰則を適用する可能性があります。
以下に、罰則のレベル別の内容を紹介します。
懲役3年以下または300万円以下の罰則
労働者に重い健康障害が発生するものであり、労働安全衛生法の違反のなかで最も重い罰則です。たとえば、以下のような内容が該当します。
- 長時間労働を強制し、重い精神障害を負わせた
- 使用が禁止されている薬品を使わせ、健康被害を与えた
- 機器の安全点検を怠り、回復不能なケガを負わせた
懲役1年以下または100万円以下の罰則
労働者に健康障害などが発生せずとも、健康障害の可能性や安全を脅かすかもしれない行為を行わせたなどが該当します。以下に例を挙げます。
- 危険な化学物質を許可なく製造させた
- 劣化などにより使用禁止となっている機械を使わせた
- 労働衛生のコンサルタントが従業員の機密情報を漏洩した
懲役6か月以下または50万円以下の罰則
危険を伴う可能性があるにもかかわらず管理を怠っていた場合や、必要な教育を受けさせていない場合に、適用されることが多い罰則です。
たとえば、以下のような内容が該当します。
- 高所での作業を行う際に、作業責任者を設けなかった
- 危険物を扱うにもかかわらず、扱い方に関する研修を実施しなかった
- 感染症法において出勤停止の伝染病にかかった従業員を、通常通り出勤させた
50万円以下の罰則
以下のようなケースでも、50万円以下の罰則を受ける可能性があります。
- 健康診断を「1年に1回よりも長いスパン(例:3年に一回)」で実施している
- 安全管理者や衛生管理者を選出していない
- 安全衛生教育を実施していない
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まとめ
労働安全衛生法は、労働者の健康や安全を守る法律であり、事業主として守るべき当然な内容です。遵守すれば、労働者はもとより事業主にとっても働きやすい環境が実現します。
労働安全衛生法などの整備および実行には、人事として経営層との調整が不可欠です。経営層と渡り歩ける人事を目指す場合には、CHROを目指すのも選択肢の一つです。CHROを目指すのであれば、スタートアップやベンチャー企業がオススメです。
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