委任型執行役員は従業員ではないため、報酬や雇用上のルールなど雇用型執行役員とは違ったルールを適用する必要があります。委任型・雇用型ともにメリット・デメリットがあるため、それぞれの違いを理解したうえで任命しましょう。
今回は委任型執行役員の役割と、役員を任命するまでに注意すべきポイントについて詳しく解説します。
関連記事:執行役員制度があるベンチャー・スタートアップは?制度のメリットデメリットも解説します
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委任型執行役員の定義
執行役員制度にはさまざまな形態があり、そのひとつが委任型執行役員です。委任型執行役員は、雇用契約ではなく委任契約で就任します。
今回は、委任型執行役員の特徴や雇用型執行役員との違い、さらに執行役員と取締役との違いについても詳しく解説します。
委任型執行役員とは「法律上の委任契約により任命した役員」のこと
委任型執行役員とは、会社と法律上の委任契約を結ぶことで任命される役員のことです。
委任型の場合は、契約当事者双方に解約の自由があり、雇用型執行役員と比べ独立性や裁量がより多く認められます。受任者は専門的な能力を評価されて任命され、その対価として高い報酬が支払われるのが一般的です。
委任契約では会社と執行役員の間に支配服従関係は存在せず、対等な関係が前提となります。ただし、完全に労働法の対象外となるわけではないため、執行役員の権限や義務については十分な検討が必要になるでしょう。
委任型執行役員と雇用型執行役員の違い
委任型執行役員と雇用型執行役員の違いには、おもに下記のような違いがあります。
委任型執行役員 | 雇用型執行役員 | |
契約形態 | 委任契約 | 雇用契約 |
立場 | 対等な関係 | 従業員 |
雇用の保障 | × | ◯ |
給与形態 | 報酬 | 給与 |
会社規定の適用 | 限定的に適用 | 全面的に適用 |
勤務時間管理 | × | ◯ |
雇用保険・労災保険の適用 | × | ◯ |
執行役員と取締役との違い
執行役員と取締役は、役割や法的立場において大きく異なる点があります。
取締役は会社法で規定された役職で、会社の経営や重要事項全般に関する意思決定権を持ちます。株式会社には最低1名以上の取締役が必要で、取締役会を設置する場合は3名以上必要です。
一方、執行役員は取締役に代わって会社の業務を執行する役員のことを指します。取締役が業務に集中すると経営方針などに関する迅速な意思決定ができなくなるため、執行役員が経営方針に基づき業務を執行する役割を担います。これにより、経営の効率化と迅速な業務遂行が可能になるのです。
このように、執行役員は取締役を補佐し業務執行をサポートする役職であり、経営の意思決定には直接関与しません。
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執行役員を委任型にするメリット
委任型執行役員を登用するメリットは、おもに3つです。
- 意思決定のスピードが早い
- 成果責任を明確化できる
- 自由な発想で事業発展に寄与できる
意思決定のスピードが早い
委任型執行役員の大きなメリットのひとつは「意思決定の速さ」です。
執行役員は経営陣から業務執行の権限を委任されており、現場で自ら判断を下すことができます。このため、マネジャーなど他の管理職が経営陣の指示を待つ必要がなく、迅速な対応が可能です。
特に大規模な組織では、現場の状況が経営層に伝わるまで時間がかかることがありますが、執行役員がいれば遅延を防ぐこともできるでしょう。
さらに、取締役は執行役員を通じて現場の状況を常に把握できるため、重要な経営判断も迅速にできるようになります。
成果責任を明確化できる
成果責任を明確化できる点も、委任型執行役員の大きなメリットです。
委任型の執行役員は、取締役と同様に善管注意義務と忠実義務を負うため、業務遂行において高い責任を持つことになります。
忠実義務とは、執行役員が会社の利益を最優先に行動し、自己の利益と会社の利益が衝突しないようにする義務のことです。執行役員には、委任者である会社の利益を守るための行動が求められます。
ただ、成果を上げることが期待される一方で、期待通りの成果を出せなかった場合は解任される点には注意が必要です。
業務の遂行に対する責任が明確になることで、委任型執行役員は自らの成果に対して強い意識を持てるようになり、結果として企業全体の業績向上に寄与できるようになります。
自由な発想で事業発展に寄与できる
自由な発想で事業の発展に貢献できる点もメリットのひとつです。
委任型執行役員は会社との雇用契約がないため、固定概念に縛られない自由な意見を出せます。斬新なアイデアは、新たなビジネスモデルや革新的な解決策を考えるときに有効です。
また、委任契約に基づく関係性は、執行役員が経営陣と対等な立場であることを意味します。忌憚のない意見を述べやすく、組織内での柔軟な発想が促進されます。結果として、従来の枠にとらわれない新しい戦略やプロジェクトが推進され、会社全体の成長と発展につながるでしょう。
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執行役員を委任型にするデメリット
委任型執行役員には3つのデメリットも存在します。
- 社内での立場が曖昧になる
- 現場の意見と乖離するケースが多い
- 形骸化するリスクがある
社内での立場が曖昧になる
委任型執行役員のデメリットのひとつは、社内での立場が曖昧になることです。
執行役員は、会社法上の役員ではないものの経営層として扱われることが多いため、他の従業員から見て役割が不明瞭になる可能性があります。
このような混乱を防ぐためには、委任型執行役員の役割と責任範囲を明確にし、社内に周知することが重要です。
従業員が委任型執行役員の立場と役割を正しく理解することで、組織全体の調和が保たれ、効率的な業務遂行が可能になります。
現場の意見と乖離するケースが多い
委任型執行役員の意見が現場の意見と乖離するケースも多いでしょう。
委任型の執行役員は雇用型の執行役員と違い、その会社での現場経験がない場合が多く、現場の実情を理解しにくいケースがあります。データでは捉えきれない細かな問題点も見落としがちです。
現場の従業員は日々顧客と接触し、リアルな問題点や課題を把握していますが、こうした現場の声が十分に伝わらないこともあります。
委任型の特性上、現場とのコミュニケーションが希薄になる傾向があり、この乖離が意思決定に悪影響を及ぼす可能性があります。組織全体の協調性や生産性が低下するリスクがあるため、十分な注意が必要です。
形骸化するリスクがある
委任型執行役員が任命されたにもかかわらず、実際の事業遂行を他の役職者に任せきりにすると、委任型執行役員の存在が形骸化するリスクもあります。
役職の実態が伴わないことで、組織全体の効率や統制が低下し、効果的な運営が妨げられる可能性があるため、注意が必要です。
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委任型執行役員制度導入で注意したい4つのポイント
委任型執行役員制度を導入する際には、いくつかの重要なポイントを理解しておく必要があります。
委任契約を結ぶことで生じる後々のトラブルを避けるためにも、4つのポイントについては特に注意しましょう。
- 委任型執行役員は社会保険の対象外
- 一般的な契約期間は1年
- 役員の任命は株主総会の決議不要
- 退職金が発生する可能性について
委任型執行役員は社会保険の対象にはならない
執行役員が会社との雇用関係がなく委任契約を結んでいる場合は、社会保険の対象外となる可能性が高いです。
労働者は「会社に使用され賃金を支払われる者」として定義され、雇用保険や健康保険に加入します。しかし、委任契約の場合は労働者とは見なされず、これらの保険制度に加入できないケースが一般的です。
委任契約に基づく執行役員は、会社の指揮命令を受けずに独立した立場で業務を行うため、労働基準法上の労働者ではなくなります。したがって、社会保険の対象外となる点は覚えておきましょう。
雇用保険については契約内容や業務の実態に基づいて総合的に判断されるため、場合によっては労働者として認められ適用される場合もあります。ただ、基本的に委任型執行役員は法律上の使用人ではないため、雇用保険も対象外となるケースが一般的です。
執行役員制度を導入する際には、社会保険制度の適用がどう変わるかを事前に確認し、必要な対策を講じておくことが重要です。
一般的な契約期間は1年
委任型執行役員の契約期間は、一般的に1年です。
委任型執行役員は、成果が厳しく問われる重要な役職であるため、短期間で評価される必要があります。
任期が満了すると、再契約されない限り会社を去ることになります。
株主総会の決議は必要なし
委任型であれ雇用型であれ、執行役員は会社法上の役員には該当しないため、株主総会の決議を必要としません。
部長や課長といった職と同じく、経営陣の判断で自由に任命が行われる点は取締役と異なる点です。 株主総会での決議を必要としないため。組織のニーズに応じた適切な人材を迅速に登用できるようになります。
従業員から委任型執行役員になると退職金が発生する場合もある
従業員が委任型執行役員に昇進する際には退職金が発生することがあります。これは、法律上の使用人としての雇用契約が終了し委任契約に移行するためです。
ちなみに、使用人が執行役員に昇進した際に支給される退職金は、所得税法上の優遇措置の対象となります。
従業員から委任型執行役員に昇格させる場合は、昇進時の退職金支払いに関する規定を明確にし、適切な手続きに漏れがないように努めましょう。
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委任型執行役員に向いている人の特徴や選ぶポイント
委任型執行役員に向いている人の特徴やポイントについても解説します。
ポイントを理解したうえで、適切な人材を選出しましょう。
経営層や現場スタッフとコミュニケーションが取れること
委任型執行役員には、経営層や現場スタッフとの高いコミュニケーション能力が求められます。委任型は雇用型とは異なり、会社との長期間のつながりが少ないため、役員と会社との深いコミュニケーションが必要です。
現場スタッフとしての業務経験がないことが原因で、現場の実態やニーズを把握するのが難しいケースも多いでしょう。そのため、現場スタッフとの対話を通じて現場の状況を正確に理解し、データだけでは捉えきれない情報を収集するスキルが必要です。
経営層との意思疎通も重要で、経営層が決めた方針や戦略の意図をくみとり、現場に伝えるのも執行役員の役目と言えます。
経営に関する経験値と知識を備えている
委任型執行役員に適している人物は、経営に関する豊富な経験と深い知識を持っていることが重要です。
一般社員とは異なり、経営側の視点を持ち長期的な戦略を考えながら業務を遂行する能力が求められます。
経営理念や方針を現場に浸透させる役割も担うため、経営と現場の橋渡しができることが理想です。経営方針に基づいて業務を執行する役割を果たすためには、経営に関する知識や経験は欠かせません。
高い倫理観を持っている
執行役員は、企業の方針に基づいて業務を遂行し、組織全体に大きな影響を与える役割を担います。信頼されるリーダーとして、倫理観があり透明性のある意思決定を行うことが必要です。
高い倫理観を持つことにより、社内外からの信頼を集め、会社全体のコンプライアンス遵守に関する意識も高まるでしょう。
高い倫理観は、組織全体の士気向上や企業の持続的な成長にも寄与する要素です。倫理的な判断を下せる執行役員は、リスクやトラブル発生時も適格な判断を下すことができ、企業の信頼性を高める重要な役目を担います。
情報収集能力が高い
委任型執行役員には、高い情報収集能力が求められます。
執行役員は、目標達成のために新たな市場や未開拓の顧客に向けて、積極的にアプローチする必要があります。新規開拓をしながら売上を増加させるためには、市場や競合他社の動向を常に把握し最新の情報を収集する能力は欠かせません。
競合が新サービスをローンチした際には、迅速に対策を講じる必要があります。また、市場の変化を敏感に察知し、自社の戦略に反映することも必要です。
人脈が広い
委任型執行役員になる場合は、幅広い人脈を持っておくと良いでしょう。
社内外に豊富な人脈を持つことで、業務の円滑な遂行が可能になります。広い人脈は情報収集や市場変化への対応にも役立ちます。多様な業界の経営層との関係を築いておくことで、トラブルが起きた際に支援を受けやすくなり、新しいビジネスチャンスを見つけることも可能です。
さらに、人脈を通じて得られる最新の知識や価値観を自社に取り入れることで、常に企業の競争力を維持し、成長を促進することができるでしょう。
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まとめ
委任型執行役員制度は、企業にとって効果的な経営戦略のひとつです。
執行役員制度を導入する際には、デメリットや注意点を理解して適切な人材を選ぶようにしましょう。高い倫理観があり、成果至上主義の考え方を持つ委任型執行役員なら、きっと自社の成長にも寄与してくれるはずです。
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監修者
人材育成/組織マネジメント専門ライター(KEN’S BUSINESS代表)
嶋よしかず
メーカーのエンジニア、法人営業コンサルタントを経て、大手通信企業にて600名の組織を統括。所属企業の経営戦略や人材育成に携わる。現在は大手オウンドメディアにて、組織マネジメントや人材育成などの記事執筆や監修に携わっている。