人的資本情報開示とは、人的資本にまつわる情報について、社内外に開示することを指します。人的資本情報開示の義務化によって、「自分達は対象なのか?」や「取り組み方を知りたい」など、疑問が生じる方も多いでしょう。
そこで今回は、人的資本情報の公開に関する概要をはじめ、該当組織や開始時期・取り組み方などを解説します。人的資本情報開示に対し、見識を深めたい場合には、ぜひ当記事を参考にしてください。
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人的資本情報開示とは?
人的資本情報開示とは、所属している従業員にまつわる情報について、社内・社外を問わずオープンにすることを指します。明らかになった人的資本情報は、クライアント・投資家・金融機関など、会社の関係者が参考にするケースも見受けられます。記載内容によっては、関係者への訴求につながり、企業の信頼や期待をアップできるでしょう。
また「人的資本情報開示」は義務化が決定したため、より多くの企業が注目および対応を試みています。
そもそも人的資本とは?
人的資本とは、各従業員の保有する能力やスキルについて、企業経営を発展させるうえで「大切な資本」と捉える概念です。人的資本には、従業員に対し成長の機会を与え、育てるという考えが根本に存在します。従業員を「一次的な労働力」と思うような考えとは、対義の関係にあります。
少子高齢化の影響で人材不足が叫ばれるなか、人を大切に扱う考えが基盤となる「人的資本」の重要性は、ますます高まっていくでしょう。
また人的資本は、日本だけではなく、国際的に注目されています。そのため、グローバルな活動を視野に入れる企業にとっても、欠かせない要素だと言えるでしょう。
人的資本情報開示の概要・開示方法
人的資本の情報開示では、人的資本にまつわる内容について、有価証券報告書に掲載することが定められています。有価証券報告書に必要事項が盛り込まれていれば、ほかの方法を併用してもかまいません。
(例:企業ホームページに掲載する、会社パンフレットに盛り込む)
また有価証券報告書に盛り込む「人的資本情報」には、載せるべき項目が細かに定められています。掲載を必要とする箇所については、後述の「人的資本情報開示における7分野19項目について」に関する項目をご参照ください。
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人的資本情報開示が必要になった背景
人的資本情報開示が必要になった背景には、時代の移り変わりによる「企業の立ち位置」や「ビジネスパーソンや消費者がもつ価値観」の変化などが大きく関係しています。人的資本情報開示が求められるバックグラウンドは、以下の通りです。
ESGの企業価値への影響
ESGとは、以下について略した言葉です。
- Environment/環境
- Social/社会
- Governance/企業統治
人的資本は、上記の「Social」に該当します。
昨今では、環境問題や社会問題がクローズアップされることも多く、企業経営でも「ESG」は外せない要素となりつつあるでしょう。人的資本情報開示を行えば、ESGのSocial部分が顕著になります。ESGが重要視される時代背景も、人的資本情報開示を求められる1つの理由だと言えます。
少子高齢化によって人材獲得が難航
日本では、今後も少子高齢化の波がつづくと予想されています。少子高齢化が継続すると、働き盛りの世代が減ることから、人材獲得がより難しくなるでしょう。
現に人手不足で悩む企業は多く、もはや「来るもの拒まず、去る者を追わず」の姿勢では、採用および定着が困難な状況も見受けられます。そのため、在籍するスタッフを留め、さらなる活躍ができるよう、各自に投資をする姿勢が不可欠です。
少子高齢化による人材獲得の難航も、人的資本情報開示の流れにつながっています。
ダイバーシティへの配慮
昨今では「多様性を認める」や「多様な働き方」の浸透など、多様性という言葉が頻繁につかわれています。そのため、ビジネスシーンにおいても、多様性を意味する「ダイバーシティ」への配慮が顕著です。
~具体例~
- 賃金やポジションで男女差別をしない
- 個々の考え方を大切にする
- 国籍や年齢にとらわれない
ダイバーシティへの配慮が、「企業の存続を左右する」とも言える時代背景も、人的資本情を公開することの義務化に踏み切った要因の1つでしょう。
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人的資本情報開示の開始時期と対象企業
人的資本情報開示が義務化された事実を受け、「スタート時期」や「該当企業」を知りたい方も多く見受けられます。ここでは、人的資本情報開示のスタート時期や、対象となる企業について紹介します。まずは、スタート時期から見ていきましょう。
開示がはじまるタイミング
人的資本情報を公開することの義務化は、2023年からスタートしました。(米国では、2020年より義務化)正確に言えば、2023年の3/31以降における「財政年度の完了後」からです。たとえば、毎年9月に決算を実施する企業であれば、2023年の9月決算時から開示が義務化されます。
対象企業は?
人的資本情報開示の対象企業は、有価証券報告書の発行が必要な企業です。有価証券報告書の発行が必要な企業についてざっくり述べると、一定の条件を満たした上場企業であり、およそ4,000ほどの企業が該当します。
詳細な要件は、財務省のホームページなどから確認できます。
財務省ホームページ:企業内容等開示(ディスクロージャー)制度の概要
対象外の中小企業も開示でメリットが
人的資本情報開示の対象外である中小企業は、情報を開示する必要はありません。しかし、対象外であっても、人的資本情報を開示する利点があるのです。
~メリットの例~
- 既存社員の意欲が増す
- アピール材料になり応募者が増加する
- 上場企業との新規契約に発展する可能性
人的資本情報開示をすることで、多くのチャンスに恵まれる可能性があるでしょう。
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人的資本情報開示における7分野19項目について
人的資本情報開示をする際には、ルールに則ったやり方が求められます。代表的なルールは、開示する内容に「7分野/19項目」を掲載することです。
対象外である中小企業も、開示を試みる場合には「7分野/19項目」の掲載を意識しましょう。
人材育成分野
人材育成の分野では、「リーダーシップ」「育成」「スキル&経験」という、3つの項目を開示します。開示すべき内容は、以下などです。
- 人材育成に費やす時間…育成時間、研修時間、担当者が教育に費やした時間など
- コスト…研修費用、評価システム費、人件費など
研修内容の詳細や、出席者なども記載するとよいでしょう。人材育成に時間やコストをかけた結果、得られた効果なども掲載すると、より具体性が増します。
エンゲージメント分野
エンゲージメントの分野では、「従業員満足度」の項目を開示します。数字や値で表現すべく、エンゲージメント調査などを実施すると便利です。
調査の結果が高ければ、スタッフの満足度が高いと言えます。従業員満足度を高めるために、必要な対策を実施していたケースでは、その旨を記載しましょう。
(施策の例:評価制度の整備、1on1の実施)
従業員満足度の結果がイマイチであれば、今後の戦略や課題などを記載します。
ダイバーシティの分野
ダイバーシティの分野では、「ダイバーシティ」「育児休業」「非差別」という、3つの項目を開示します。多様な人材を差別なく活用し、男女ともに育児休業を盛んに取得していることをアピールする項目です。
また金融庁のサイトを参照すると、当項目に掲載する具体例として、以下が挙げられています。
- 女性役職者の比率推移
- 男性の育休取得率
- 男女間の給与差異
金融庁:「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について
従業員の年齢・性別・国籍などの割合や、育児休業制度への取り組みなどがあれば、積極的に記載するとよいでしょう。
流動性の分野
流動性の分野では、「採用」「維持」「サクセッション」という、3つの項目を開示します。3つの項目をチェックすると、人材の採用・定着・継承を表現してほしい意図が、読み取れるでしょう。
実際に流動性の分野では、以下などを掲載します。
- 離職率や離職者数
- 定着率
- 採用コストに対する採用成功率
- 管理職の候補者数
また、離職率を低下させた取り組み内容や、定着率の改善状況などを記載するのもオススメです。
安全・健康の分野
安全・健康の分野では、「安全」「精神的健康」「身体的健康」という、3つの項目が開示されます。人的資本を最大限に活用するには、従業員に対して、健康および安全に働いてもらう必要があるでしょう。
健康や安全への対応状況を示すために、以下のような内容を記載します。
- 業務上のケガや死亡数
- 健康診断や人間ドックを実施した人数
- 導入しているヘルスケアサービスの内容
ほかにも、「歩数計の提供」や「災害に強いレイアウト」など、従業員の安全や健康につながる施策を講じていれば記載しましょう。
労働慣行の分野
労働慣行の分野では、「労働慣行」「児童労働と強制労働」「福利厚生」「賃金の公正性」「組合との関係」という、5つの項目を開示します。労使間は、対等な立場であることが望ましいでしょう。労使間の状況をチェックできるよう、以下のような内容を記載します。
- 賃金相場との乖離状況
- 福利厚生の対象者
- 組合との協定対象者
たとえば、人権問題が発生しないよう、特別な取り組みを実施していれば、実施内容や反応を記載するとよいでしょう。
倫理・コンプライアンスの分野
倫理・コンプライアンスの分野では、「法令順守」の項目を開示します。法令の順守状況は、「対従業員」はもとより、クライアントが評価する信用度にも影響を与えます。
倫理・コンプライアンスの分野では、具体的に以下のような内容を記載します。
- 過去の苦情数
- 人権問題の発生数
- 倫理・コンプライアンスに関する研修の実施状況
定期的にハラスメント調査を実施したり、匿名で社内状況を告発できるシステムを導入していれば、あわせて記載するとよいでしょう。
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人的資本情報開示への対応・取り組み方
つづいて、人的資本情報開示への対応方法や取り組み方を紹介します。人的資本情報開示の内容は、取引先・従業員・株主などの関係者も目にする機会があるため、適切な方法で実施する必要があります。
人的資本情報開示の適切な取り組み方を知りたい場合には、以下のステップをご参照ください。
情報収集および可視化
まずは、開示の基盤となる「人的資本の状況」について、適切に把握する姿勢が大切です。開示が必須とされる「7分野19項目」を踏まえ、必要な情報を抽出します。具体的な情報については、先述の【人的資本状況開示における7分野19項目について】をチェックしてください。
また収集した情報は、いつでも抽出や修正ができるよう、可視化した状態にするとよいでしょう。可視化すれば、前後のデータで比較できるため、分析もしやすくなります。
情報開示に向けた目標を設定
情報開示をする際には、持続的発展につながるような目標を設定します。目標を設定すると、開示情報に統一感が出ることから、関係者への説得力も増すでしょう。
また目標には、具体的な数値といった「定量的な要素」を含めると、誰もが同じ認識をもちやすくなります。そのため、ゴールであるKGIと、プロセスであるKPIを設定するとスムーズです。KGIとKPIの達成率も開示すれば、社内外ともに、人的資本の状況をイメージしやすくなるでしょう。
現状とのギャップが埋まる施策を用意
人的資本の現状が、目標と乖離する場合には、現状との差が埋まる施策を用意します。たとえば、ベテランの離職によって、組織全体の業務効率性が低下している場合には、「定着率を高める施策」が必要でしょう。施策を行う前後のデータも残せば、施策の導入による改善の度合いもわかります。
正確な施策内容や改善状況も、人的資本情報の開示に含めれば、オリジナリティのある信憑性の高い内容を記載できるでしょう。
施策の実施と検証を繰り返す
人的資本情報は、開示して終わりではありません。企業の持続的発展に向けて、発展の材料にすることが大切です。そのためには、人的資本に講じるさまざまな施策について、実施と検証を繰り返す姿勢(=PDCAサイクルを回す)が不可欠です。
トライアンドエラーを継続すれば、新たな発見や課題を見出せることから、目標に向かって着実に進歩できるでしょう。継続的なPDCAを関係者が見ることで、企業に対する信頼や期待にもつながります。
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まとめ:人的資本情報開示で人的資本の価値が高まる今、社内体制の強化が必要に
人的資本情報開示が義務化された現在において、より一層「人的なリソースに対する注目」が高まっています。戦略の実現や発展を目指すには、人的資本の有効活用が必要です。社内体制を強化すべく、人材のさらなる成長を目指す場合には、ハイパフォーマーの採用も役立ちます。優秀な人物の採用を考える場合には、ハイクラス転職に強い「BNGパートナーズ」の転職サービスがオススメです。選任の担当者が、自社に適した人材を提案し、人材の獲得や定着率アップに向けたサポートを実施いたします。
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企業の人事担当者・責任者の方へ
監修者
人事コンサルタント
髙橋弘樹
約10年の人事労務・採用経験を持ち、製造業や自動車メーカーのグループ企業など4社で活躍。キャリアアドバイスや人事・労務・採用の幅広い実績をもつ。現場での第一線の経験を活かし、充実したキャリアの構築を支援している。