【前編】ランサーズ・曽根秀晶×BNGパートナーズ・岡本勇一&近藤敬佑
急速に変化し続けるビジネスの世界で生き抜くためにも、4つの「P」を常に自らに問いたい
~ランサーズのCOOが語る、CxO人材に必要なキャリア視点とは?

「個のエンパワーメント」をミッションに掲げ、フリーランスや副業向けのマッチングプラットフォームを運営するランサーズ株式会社。2008年の創業以来、次々と魅力的なサービスをリリースし、業容を拡大。2019年には東京証券取引所マザーズ市場(2022年東証グロース市場に再編)への上場を果たすなど、快進撃を続けています。同社が取り組んでいるのは、テクノロジーの進化を活かして多くの人に価値と成長機会を提供し、個人の生活・働き方、あり方を変革すること。その実現に向け、さらなる挑戦を続けています。

そんな同社の取締役 執行役員COOとして経営戦略全般の立案やM&A、新規事業などの推進を主に担っているのが曽根氏です。戦略コンサルタントから大手IT企業の事業・経営企画へ、そして同社の役員へと転身する中、さまざまな経験を積み重ねて来られました。「修羅場は幾度もあった」と語る曽根氏は、変化の激しいビジネスの世界で生き抜くために何を軸としてきたのか。その生き様、価値観は、これからCxOを目指す方にとって多くの示唆が含まれています。BNGパートナーズエグゼクティブサーチ事業部長として、あらゆる採用の最前線に精通した岡本勇一、コンサルタントの近藤敬佑が対談を通じて、それらを紐解いていきます。前編では、曽根氏のキャリア形成における視点やCxO人材を目指すために不可欠な経験にフォーカスします。

経営コンサルからスタートしさまざまなキャリアを歩む

近藤:最初に、曽根様がファーストキャリアで経営コンサルタントを選択された背景をご教示いただけますか。

曽根:正直言うと偶然の出会いです(笑)。大学では建築を専攻していました。

卒業設計も命を削る想いで取り組みました。でも、結局は建築家になる夢を諦めたんです。

ただ、未練が断ち切れませんでしたね。大学院でも建築学専攻に進み、留学という名の放浪を重ねていました。

大学院2年の初め頃に日本に戻り、就職活動に向けて自分は何ができるのかを考え、

思い浮かんだのが、デザインとリサーチでした。

どちらに進めば良いのかと悩みに悩みました。

最後は自分自身で心の奥底に、「自分はどうなりたいのか」「何をしたいのか」と問うて、

より知的にワクワクする方を選びましたね。

近藤:その当時から自分自身と向き合って解を出されていたのですね。

曽根:当時はまだ「働くとは何か」「自分自身が何だ」とか、そこまで深く考えて自分の中で答えを持っていたわけではありません。ただ単に、「自分は何で駆動する人なのか」と考えた時に、知的好奇心だと気付いたのです。

その問いに答えるようにして選んだのが、マッキンゼーでした。

近藤:これまで知的好奇心でキャリアを選択することが多かったのですか。

曽根:最初はそうでした。ただ、何で選んでいたかと言えば仕事の「4P」というフレームでした。

「Philosophy(目的・何のために)」

「People(仲間・誰と)」

「Profession(職務・何を)」

「Privilege(待遇・いくらで)」

の順番で自分に課していました。

実は、キャリアを歩む中でこの順番が逆転していた時期もありました。

例えば、一社目のマッキンゼーにいた時は、何のために、何を、誰と、幾らでの順番でした。新卒だった時、自分の中に課題感や使命感があったわけではありません。何となく、「こんな課題を解けたら面白いだろうなあ」とか「このチャンネルだったら、ワクワクドキドキする」というざっくりとした感じで選んでいました。

しかし、二社目の楽天ではその二番目と三番目が明確に入れ替わりました。

「誰と」と言うところの衝撃が自分の中で凄かったからです。

近藤:何か明確な出来事があったのですか。

曽根:今まで会ったことがない、自分の尺度では測れないような人たちと出会ったことが大きいと思います。当時は、インターネット2.0やWeb2.0への大きな変革期でした。

そこに跋扈する野武士みたいな印象がありましたね。嗅覚だけがとてつもなく鋭い野良のインテリ集団と言うか…。とにかく威圧感と推進力が凄い方が沢山いました。

その人たちと共に、グローバル化に立ち向かえる良いタイミングで入社した気がします。

近藤:その後曽根さんが、楽天の海外展開をリードされていかれたわけですね。

曽根:そこに挑むにあたって、頭で何か大きなことを言うのではなく、むしろ頭を擦りつけて埋もれるぐらいに潜り、泥水をすするどころか飲み込んで吐くぐらいの気迫でした。

私にとっては凄い体験・経験でした。その経験があったこともあり、楽天の社会的大義である「エンパワーメント」は、今でも僕の一つのコアとなっています。

社会全体が「何のために」を模索する時期に突入

岡本:今後、CxOを目指す方々はキャリアについてどう考えたら良いとお考えですか。

曽根:「4P」のモデル自体は、一般的なフレームワークです。ただ、自分では順番にかなり自信を持っています。これからのキャリアを考えている方にもぜひ問うてほしいと思います。

やはり、今後は役に立つこと意味のあることに仕事はわかれていきます。

役に立つことも大事ですが、世の中には便利なものが溢れています。そうすると、意味・意義を感じられるかどうか、有体に言うとPurposeがあるかどうかの価値が圧倒的に高まっていくと思います。

社会全体が、「何のために」を模索する時期に入って来たということです。

特に日本は課題先進国ゆえ、他の国に先駆けています。だから、Purposeがこれだけ叫ばれているのです。個人的には、「何のために」をもっと強く意識して良いと思っています。

近藤:自分なりに尺度として目的を持っておくことが、意思決定をする上で大事だということですね。

曽根:大事であるし、大事になっていくと思います。これを僕個人は、「ビジョンサークルの重なり」と呼んでいます。もう一つは、何をやるか、その職能であったり、職能のスキルみたいなものをファンダメンタルとテクニカルにわけた時に、前者はずっと残るものの後者は消えていくものが増えてきました。ともすると、10年後にはなくなっているかもしれません。

だからこそ、アップデートし続けることが大切なのです。

そのためにも、自分が「学び続けたい」「アップデートし続けたい」と思える動力源を持っていないといけません。それは何かといえば、目的意識や影響を与えてくれる周りの環境です。

岡本:「Purposeが大事だ」とは言うものの、若い人には「理想を掲げても自分にはまだ何もできない」という葛藤もあったりします。どうすれば良いとお考えですか。

曽根:周囲に目を向けて等身大の目的意識を持つことです。やれることが増えると自分の視野が広がります。

自分の想像していた外の世界で「今こんなことが起きている」、「こんなことのために活躍していきたい」と目を見開ける瞬間が来るものです。なので、僕は「誰と」はかなり大事だと思っています。

近藤:まずはやれることを増やす。そうしたら、自ずと見えてくる。それも、「誰と」に拠るということですね。

「働く」とは、「自分らしさと社会との接点」

曽根:「働く」とは、「自分らしさと社会との接点」なのです。今、社会はどんどん変わってきています。以前はなかったような職業が生まれています。業界も変わっていますし、ユーザーや顧客も同様、その基盤となる技術や思想も大切です。

一方で、「自分らしさ」もどんどん変化します。ここで問題なのは、「自分らしさ」で言う自分とは何かということ。これは、僕にとって3年ほどに渡るテーマになっています。

近藤:個人の中にも色々な人格があったりしますからね。

曽根:パーソナリティや人格の集合体として、ホールディングスの「株式会社自分」があるとします。もしかすると、家族といる時の自分は子会社A、SNSをしている時は子会社Bであったりします。そういう中で、自分自身のPurposeを探し出す旅が仕事なのです。

決して、最初からあるものではないと思っています。

岡本:まずは色々なものを認知して、それを突き詰める。それによって見えてくるということですね。

曽根:世界はどんどん変化していくし、その変化を面白いと思えるかが圧倒的に一番の資産です。面白いと思える勘所を自分の中で作ることです。色々な体験を吸収して、拡張させる。

さらには俯瞰して眺める。そして変化を追って振り返っていく。そうした流れをメタにとらえていく。

近藤:色々な角度から客観的な視点を織り交ぜて、自分のキャリアを見ていくのですね。

曽根:そうです。まさにこれをメタ認知と言います。

面接の時も

「あなたは自分自身のことを認知できていますか」

「あなたは自分自身のことを把握できていますか」

「あなたは自分自身のことを表現できていますか」

というような点を大事に見ています。

出会いを力に変えるためには、自分のタグをつくる

岡本:ネット社会になって人との関わりがなくなりつつあります。曽根さんは、どうされているのですか。

曽根:出会いを力に変えることを大事にしています。元々、僕の人生のアドバンテージは、出会いを力に変えてきたことです。

まずは、出会うためにアクションを起こします。そこで何か機会を掴むためには、自分のタグをつくることです。

「何に興味・関心があるか」

「何が得意か」

「何を良く知っているか」

このようなタグが必要です。

そうすると、単なるすれ違いではなく出会いになるわけです。そこで相手に刺激を与えると、向こうから何かを得ることができます。

出会いを学びに変える、そのコンバージョンを引き出さないと何も得られません。ならば、どうやって引き出すかと言えば、自分から出すことです。それが向こうに響くと、今度は向こうも出してきます。そうすると深く聞き出せるわけです。強いグルーブ感が残りますから、「一緒に仕事をしたい」「何か面白いことができそうだ」などと機会が転がり込んできます。

近藤:なるほど、人との出会いを最大化させるためにも自分のタグをつくる=自分で旗を立てに行く行動が大切なんですね。

曽根:自分から機会をどんどん作っていくためにアクションする。その時に、小さくても良いので自分の旗を立てる。その繰り返しの中で、「誰と働くと面白い」「何をすると面白い」がわかってきて、自分の目的が少しずつ芽生えてきます。

カオスに飛び込み限界を突破するレジリエンス力がより重要に

岡本:ところで、CxO人材に求められるスキルや経験は、どう変化してきたとお考えですか。

曽根:先程の延長線上にある話で行くと、CxOは社長が持つ機能の分解です。執行役員は多くの組織を束ねる立場となります。当然ながら、いずれも色々な人と関わります。そうした時に、何が重要になってくるかと言えば、さまざまな人を巻き込んで引っ張っていく力です。

人は、自分自身の強みや興味・関心、それを駆動している目的意識を持っている人についていきます。なので、それを磨いていかないといけません。

どうするかと言ったら、

・修羅場

・土壇場

・正念場

の経験を獲得することです。現代は、経験総量の獲得競争の時代です。

具体的には、カオスの状況に自ら飛び込んで限界を突破することです。器がどんどん大きくなっていくと、普通の人にはパニックゾーンであっても、自分にはコンフォートゾーンになってきます。自ずと自己効力感が増して、それに煽られたメンバーも「自分たちもできる」と信じるようになるので、組織効力感が一気に盛り上がっていきます。

近藤:そこに飛び込むためには、目的意識や駆動させる力がないといけないのですね。

曽根:それが専門性です。「この人だったらこれができるだろう」とか「このためにやるんだ」というのがないと、組織としての旗を立てる力が付いてきません。

岡本:世の中が大きく変わりつつあり、修羅場や正念場を踏みにくい環境になってきました。守られてしまっているという気がしてしまいます。

曽根:ベンチャー企業だとこれでもかという困難、いわゆる「HARD THINGS」を乗り越えなければいけない場面があったりします。これは、圧倒的に器を大きくしてくれて、水平成長だけでなく垂直成長のような経験を積めます。

それを単に「大変だ」「辛い」と思うのか、それとも「アップデートできる」と思えるか。

僕はそこで、レジリエンス力を発揮できる方と一緒に働きたいと思っています。

岡本:やはり、ベンチャーに行った方が良いですか。

曽根:ベンチャーである必要はないと思います。「HARD THINGS」とは、自分の能力以上であったり、自分が見えているもの以上の機会を取りにいくということです。

あくまでも、自分を尺度とした時のストレスを意味します。裁量が決まっていて、そこからはみ出ない環境は安定しているかもしれませんが、「どうして飛び越えないのか」「飛び込んでくれば良いじゃないか」というカルチャー、空気感がある企業なのであればお勧めします。

もしくは、本業でないところで修羅場や正念場を経験するという考え方も大事になってきます。

ただし、いずれであっても「ここを越えたら死んでしまう」という撤退線を把握しておくことが、メタ認知においてとても重要です。死んでしまっては再生できませんからね。どこまでが自分にとってのラーニングゾーンなのかは、優秀な人ほどわかっておらず失敗しがちです。

岡本:それを含めてメタ認知ということですね。

ビジョンの策定と責任を取る覚悟は、AIには担えない

曽根:さらに、経営メンバーに何が求められるかと言うと、目標に対する課題設定と解決力、その結果に対する責任力です。これも今後大きく変わっていきそうです。何故なら、課題を立てる、そのための良い問いを立てるといったことを生成AIが対応できるようになってきているからです。もっと言うと、課題に対する解決策も出してきたりします。

そうなってくると、経営メンバーはより良い問いを立てられるか、立てた問いにセンスがあるかという価値と、周りを巻き込んで施策を指揮し、実行した後の責任を取れるかという価値に両極化していく気がします。このように変わっていくというのが、僕の仮説です。

岡本:なるほど、そうだとすると生成AIがますます発達していった時に、経営に求められるものは具体的に何になってくるのでしょうか。

曽根:ビジョンの策定です。『何のために』というビジョンにあわせた目標設定も必要ですね。そこは、生成AIでも対応できません。目標を立てる力こそが、絶対に変わらない最重要なものですし、仮にその目標に対して何をどうやったら良いかを、生成AIが導き出したとしてもそれを回していき、最後の責任を取るみたいなこともできません。これは覚悟としか言いようがないのです。

近藤:求められるものが、より人間臭くなってきますね。

後編に続く


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