ベンチャートップが語る、強い組織づくりの極意【テモナ佐川隼人 × ポート春日博文】

2021/08/12

【CxO塾レポート】

CxO塾!とは?
BNGパートナーズでは、「CxO塾!」でベンチャー企業のCxOにご登壇いただき、自社のアップデートに役立つ情報をお届けしています。

BNGパートナーズが開催する「 CxO塾!」、7月のテーマは「ベンチャートップが語る、強い組織をつくる方法」。IPOを経て成長する組織は、どのような課題に直面するのか。その時に必要な対策とは何なのか。モデレーターにRetool代表取締役 貝谷實榮氏を迎え、テモナ代表取締役社長 佐川隼人氏、ポート代表取締役CEO 春日博文氏に、リアルな経験談などをディスカッションしていただきました。

(撮影:矢野拓実、取材・文:安住久美子)

[登壇者]

テモナ株式会社
代表取締役社長 佐川隼人氏
3度の起業を経て、2008年10月にテモナ株式会社を設立。サブスクリプション型のSaaSサービス「サブスクストア(旧たまごリピートNext)」を提供している。2017年に東証マザーズ上場、2019年4月に東証一部上場。一般社団法人日本サブスクリプションビジネス振興会(サブスク振興会)代表理事も務める。◆コーポレートサイトはこちら

ポート株式会社
代表取締役CEO 春日博文氏
大学在学中に新卒採用支援業やプロモーション支援を個人事業主として開始。2011年、大学卒業と同時にソーシャルリクルーティング(現:ポート株式会社)を創業。2018年東証マザーズ上場。人材、金融、医療領域でインターネットメディア事業を展開。◆コーポレートサイトはこちら

[モデレーター]

株式会社Retool
代表取締役 貝谷實榮氏
新卒で光通信に入社し法人営業に従事。30歳で株式会社エフルート(現アクセルマーク)に入社しマネジメント業務を経験。同社COO、株式会社gumi執行役員、株式会社エンターモーションCOOと一貫して事業マネジメント業務に従事してきた。現在は株式会社Retoolを設立し、支援事業をベースとして、SaaS化、AI化による支援事業のシステムソリューションを実施している。

(以下、敬称略)

目次[非表示]

  1. ##上場前後の組織はどうなる
  2. ## 強い組織づくりのリアルとは
  3. ## NO.2との関係はかくあるべき
  4. ## 経営チームがぶつかる壁とは
  5. ## 採用が強い会社は何を実践しているのか?
  6. ## 社長は追い続け、言い続けろ 
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##上場前後の組織はどうなる

貝谷:本日はよろしくお願い致します。私はこれまで複数の会社のCOOを経験してきました。今日は上場した2社のお話しをお伺いしながら、これから上場や組織成長を目指す皆さまと同じ目線で話を進めていきたいと思っております。

最初のテーマは、「上場をふりかえって」です。ベンチャー起業をやっている中で、ひとつの目標として「上場」を置いている企業は多いと思います。上場を成し遂げた中で、どのような経験をされてきたのか、感じたことなどを教えてください。

佐川:テモナが東証マザーズに上場したのは2017年4月、東証一部が2019年4月です。結論からいうと、9割はやってよかったと思っています。上場をしたことによって成長のドライブがかかり、資金調達ができる、ネームバリューがあがるなど、いろいろな意味で挑戦の幅が広がりました。

また上場という通行手形を持って、上場経営者の方に会うことができる、その中に入ることで自分自身の視座をあげる経験ができるというのは、経営者としては一番のバリューでした。

しかし、上場直後に実は会社がガタガタになったんです。上場準備の2年間は、自分も大きくコミットしてきたのですが、いつのまにか上場がゴールになってしまっていた。上場後会社が崩れ、事業は崩れました。ストックビジネスなので業績に表れることはなかったのですが、社内は大変な状況でした。

外から見ると上場しキラキラ見えていたと思いますし、たくさんお祝いを言っていただいたのですが、中を見ると崩れている。そんな状態が1年半くらい続きました。

春日:ポートは、2018年12月東証マザーズと、福岡証券取引所に上場しました。まだ上場から半年、6月にはじめて株主総会をしたばかりなので、明確な課題が出てくる可能性があるのはこれからというところです。

上場後のポジティブな変化でいうと、取引先の開拓スピードがあがったことがあります。上場前と比較すると、新規の取引先増加数は圧倒的に早くなりました。

当社は複数領域のインターネットメディア事業を展開する会社ですので各領域でクライアント様が異なります。そのため取引先の開拓は事業グロースにとって至上命題ですが、ここが上場により非常にポジティブな効果を生んでいます。

上場準備の過程では、上場前期まで4年連続赤字でしたので、黒字化する約1年前から急ピッチで準備をしましたが、上場というわかりやすい目標を掲げてそれに向かって様々な体制整備を進めることができたという点は、ポジティブにとらえられるところですね。

貝谷:今の話の中で皆さんが気になるのは、佐川さんがおっしゃった「上場後に組織がガタガタだった」というところだと思います。僕もこれまでIPOをみてきた中で、IPO後はそういうことが起きがちだと思っています。佐川さん、実際にどんなことが起きたのか教えてください。

佐川:はい。上場2年前は従業員数が約20名、上場時は45名くらいまで増えました。20名のときは僕の価値観をみんなが理解していたし、新卒も多いので部活のような雰囲気で、わいわい楽しくやりながらも成果を出していました。

上場には規程などを作り体制を整える直前前期と、それを運用する直前期という大きな流れがあると思いますが、部活のような組織から上場のために組閣をし、体制づくりをし、きちんとした会社として作っていったわけです。

しかし今振り返ってみると、組閣も組織も、うちの会社にとっては8割が無駄なものでした。もちろん上場には必要なことですが、無駄なルールで機動力は落ち、挑戦できない空気になり、実際に「こんなのベンチャーじゃない」という社員もいました。

また、組閣して中途の幹部が入ってきたことで、新卒と中途が対立する、営業と技術部門が対立するなどいろいろな問題が起きてしまいました。僕が上場準備に深くコミットしていたので、もう少し事業や組織など本質の経営をしっかりと見ていればこんなことにはならなかったんだろうな、と思いますね。

貝谷:裏を返すと、春日さんは上場の細かいことは任せて、ご自身が事業を見ていたので比較的スムーズだったのでしょうか。

春日:弊社の場合は、ビジネスは僕が見る、コーポレートは副社長が見るように大きく役割分担していたので、上場準備もある程度分業して行いました。
佐川社長のお話はたしかにそうだなと思いますね。うちの場合は3年前くらいから大きく資金調達をして幹部層の採用に投資していてきました。テモナさんのような組織の問題は起きましたし、それを何度か繰り返し、一巡し、今があるという感じですね。

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## 強い組織づくりのリアルとは

貝谷:上場までの事業拡大、業績の向上、IPO、そして今。この過程にはたくさんの方が介在していると思います。組織はルールを作るということと同時に、人という部分も大きいですよね。お二人から見て強い組織とはどんなものでしょうか。

春日:僕らの場合は、資金調達し、部長や執行役員クラスの人材を一気に採用しました。採用コストだけで7,000万くらいかけましたが、振り返ってみるとその中で今も残っているのは2人だけです。

一番の失敗は、もともといた事業責任者がしらける人事をしてしまったことでしょうね。創業当初から一緒にやってきた事業責任者の上に、ヘッドハンティングで連れてきた人材をどんどん入れていったら、「社長もだいぶ変わったな。」「会社も変わったな。」と見られてしまったんですね。一方で、僕は会社成長のためには人の入れ替えなんて当たり前だと、当時は思っていました。

メンバーとの信頼関係が壊れてしまったり、反感を持つメンバーが増えてしまうことでマネジメントは難しくなり、多くの弊害が出て、すべてがうまくいかなくなりました。ブランドがあって、市場価値が高いと言われるハイクラスの中途採用をすれば会社が伸びると考えてしまったことによる組織失敗は、僕の中では大きかったですね。

佐川氏:強い組織のあり方というのは、ステージによってまったく違うと思いますね。弊社は100人ほどの組織規模ですが、今は思いっきりアクセルを踏んでいる時期。定量的にいうと3年で会社を10倍大きくするという目標を掲げており、かなりチャレンジしているというステージです。

まずは社長のゴール設定として「思いっきり成長するんだ」というところから、幹部で合意形成をして、採用を強化する。そのときに僕が気をつけていることは、うちが今できていないことをできる人材を採用するということですね。

会社がチャレンジをして成長していくというのは、未知の領域を進んでいくこと。もちろん、社内のメンバーを教育し成長していくのを待つことができればそれでいいですが、今会社が非連続に成長していこうとするフェーズにおいては、そこをやってきた人間を採用するというのが僕は最短だと思っています。

ある意味、自分よりも優秀な人間を採用しないと、実現できないと思っているので、幹部クラスの採用には特にコストをかけていますね。

貝谷:価値観の共有なのか、能力差分なのか、お二人とも角度は違いますが、責任を任せられるメンバーとの信頼関係をどのように作るかという点が、強い組織には重要なのかなと感じました。

佐川氏:そうですね。うちの場合は役職のつけ方には気をつけていますね。採用時に理念に共感しているというのは大前提ですが、成果を出さないとポストは与えません。成果を出さないと周囲からの信用も得られませんので、パラシュート人事にならないために意識しています。

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## NO.2との関係はかくあるべき

貝谷:強い組織にはすべての人材が重要だと思いますが、その中でも経営者のパートナーとなるNo.2との関係性は特に重要ですよね。どんな役割分担をするのが良いのか、どのように信頼関係を作り、今の成功につながっているのか。秘訣を教えてください。

佐川:弊社はCTOの中野がNo.2です。CTOと言いながらもビジョンや事業も見ていて、5~6年一緒にやっています。彼とは半年に1回くらいぶつかって、何度かこのまま放っておくとヤバいなというときもあるんです。そういうときは、2人でじっくり深いコミュニケーションをとる時間を作ります。

この間は、千葉に2人でドライブに行きました。ツーカーの関係であれども、他人同士。お酒が入ると感情的になってしまうので、僕はあえてお酒は飲まずに話をします。半日くらい一緒にいて、腹を割って話をして、行きと帰りではお互いの顔つきが全然違うんですよ。

結婚と一緒で、はじまりは命かけて一緒にやろうぜといってはじまったので、話せばわかる。食い違いは必ず生まれるので、その都度深くコミュニケーションをとって解決するのが重要だと思います。

CTOの分野において明らかに自分よりも高い能力を持っているので、全幅の信頼をもって完全に任せています。分業しながら、補完し合い、喧嘩もする。そんな関係ですね。

春日:うちのNO.2は副社長の丸山です。僕らの場合は、役割分担につきます。僕はトップダウンでビジネスを見ているので、ビジネスマネジメントが中心。丸山はHR出身の人間でもありますし、ピープルマネジメントが中心、という風になっています。

すべての事業は二人で見ていて、ビジネスのマネジメントは僕が指示は出し、その中で様々な問題はありますが、その中でも特に人の問題は丸山がサポート、マネジメントすると。自分自身ピープルマネジメントが得意な方でもないとは思いますし、なにより創業オーナーなのでメンバーの気持ちを100%わかるかというとそうではないので、そこは丸山に任せています。

ですから、未上場の時に投資家の皆さんによく言われて、言われてみるとそうだなと思ったのは、普通だったら社長がどう考えているか、ということで春日さんが〜などと言うことも多いけれど、ポートという会社はメンバーみんなが「春日さんと丸山さんが〜」と並列で言いますね、ということです。丸山には権限移譲といいますが本当に二人三脚でやっていると思っていますし、メンバーもそれを理解しています。

佐川社長と一緒で、僕らも2人でよくいます。2泊3日で旅行に行ったり、毎年一緒に初詣に行ったり。意図的に接触する場所を作り、信頼関係を作るというのは大前提なのかなと思います。

貝谷:家族のような関係ですよね。僕もCOOという立場だったので、トップとはよく一緒にいました。海外に行ったとき話をしたいからということで、1週間ツインルームで一緒に暮らすというのは、さすがにふざけているのかなと思いましたが(笑)。事業成長のためには、そういう時間も必要だったのかなと、今お二人の話を聞いていて思いました。

COOをやっていた立場からひとつお聞きしてみたいと思うのですが、そこまで信頼できるという究極の要素は何でしょうか。

春日:僕の場合は、性格は違うけれど意思決定しているロジックは一緒なんです。同じ考え方をしているので、ぶつかって仲悪くなる、方向性が違うな、などという事になったことは一度もないですね。ただお互いマネジメント含めて方法論が違うので、それぞれのやり方でマネジメントをしていますね。

佐川:僕は、自分が右腕として選んだNO.2であるからこそ、信頼しなくてはならないと思っています。これは逆説的にはなってしまいますが、そうであるべきなんです。実際にそれができていないのだとすれば、その人はNO.2でも、右腕でもないですよね。

経営者として、任せてどういう結果がかえってくるのかは見ますし、失敗したときにどういう対応をしたか、成果を出しているかはもちろん見ます。最低限その姿勢は必要ですが、ベクトルが同じ方向を向いていればいいと思います。アウトプットがついてくれば一緒に素直に喜びますし、ついてこなければ一緒に考える。そういう意味では、奥さんのような感じですよね。

貝谷:おふたりの話を聞いていると、兄弟と夫婦のような関係だなと。そのくらい何らかのシンパシーがないと長く苦楽をともにはできないのかなと思いました。

僕もCOOをやっていた当時は、喧嘩しながらもずっと一緒にやっていました。それに業績や事業推進においては、1回もとがめられたことがなかったんです。とりあえずやってくれと言ってもらえて、議論はしながらも最後は折れてもらえるというのは、NO.2としては安心して働けますよね。おふたりはまさにそれをやっていらっしゃるんだな、と感じました。

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## 経営チームがぶつかる壁とは

貝谷:次のテーマは「HARDTHINGS、経営チームの壁」です。ボードチームを作っていくというのは、会社の成長過程で起きるひとつの事象ですが、その中で紆余曲折しながら今の成功ステージまできていらっしゃると思います。どんな失敗があったのか、その原因なども含めて教えてください。

春日:話は被ってしまいますが、中途採用で既存事業のトップクラスに外部から人材を入れたり、新規事業を任せるということで入れたり、とにかくヘッドハンティングをしまくっていたのですが、基本的にうまくいかないことが多かったですね。何故うまくいかなかったかというと、採用時のギャップが問題でした。

具体的にいうと、たとえば事業責任者で中途の優秀な人材を入れたのですが、意外とバリューチェーン全体をまわしたことがないという人は多かったんです。ベンチャーの0→1のビジネスをやっている人は、事業もコーポレートもやる、アシスタントもいない状況で全部やらなくてはいけない。でも、大きな組織で新規事業をやっていたという人は、もともと予算があり、人手もある中でやるので、明らかにベンチャーとは前提が違う。ベンチャーがいう0→1をやれる人やったことがある人というのは意外と少ないんですよね。
その人が悪いというわけではなく、そういう環境だというすり合わせがなされないままに採用してしまっていた。どういう環境で働くのかを、きちんと伝えきれていなかったということです。これは、完全に受け入れ側のミスで、その状態で採用を継続してしまったことが、入社後のギャップを生んでしまった。その後の採用活動において非常に良い学びになり、今ではそういったことが非常に減りましたね。

経営チームの課題は、自分の器が限界値だと思うんです。社長のカラーによっては、そういう採用があっている場合もあると思います。

「自分の会社に合った優秀な人はどんな人」「会社の状況を嘘なく伝えるとどんな良い事、悪いことがあるのか」ということを明確にしておくこと。そして受け入れる際には、自分たちの会社についてきちんと理解してもらうためのコミュニケーションが重要だと思います。

佐川:弊社の場合は、経営チームで一枚岩になれていなかった時期がありました。それぞれに紐づいている人がいて、派閥のようになって対立構造ができてしまったんです。IPO後の魔の1年半がまさにその状況で、社内で切り合いをしているような状態でした。
僕がそのときに発したメッセージは、「ベンチャーに戻ろう。理念に立ち返ろう。」ということでした。僕がそれまで委譲してきたことを1回全部巻き取って、全員を自分の配下に置いて全部見るようにしました。
僕はこの会社が4回目の起業で、15年くらい経営をやっていますが、組織のステージが変わるごとに会社がぐちゃぐちゃになって、現場に社長が入って立て直すということを3年に1回はやっています。だから、これは社長のルーティンだと思うようになりました。

社長が現場に入るというのは悪いことのように聞こえますが、会社が崩壊寸前になっているときには入らないといけないし、そこを見誤ると本当の意味で崩壊する。うまくいっているときは現場に委譲すればいいですが、課題が積みあがってきて、それがデッドゾーンに入ってきたときに社長がそこに入れるかどうか。僕は3年に1回くらい、それを繰り返してやっていますね。

貝谷:経営チームを作っていく中で、この人は採用して良かったと思える人はどんな人だったのでしょうか。

佐川:僕は「未来から来た人」と言っています。弊社ではハイクラスの人材を採用するときは、現場の責任者にひととおり会わせて意見をもらい、現場が「この人は早すぎる、オーバースペックです。」という人をあえて採用しているんです。

現場の人間は1年先を見ているが、経営チームの人材は数年先を見ている。だからこそ、現場が「早すぎる、スペックが高すぎる」と思うような人材は、数年先に必要な人間だと思うからです。そして実際に自分が会ってみて、間違いないと思った人がこれまでに3人いました。そういう人材は、実際に入社してからも全員はまっていますね。

春日:基本的にうちの受け入れ体制に問題はありましたが、入社後にうまくいっている人の共通点は、採用活動で時間がかかった人というのがあります。

何故かというと、そういう人たちは「今までの能力をここで発揮できるか」について、良い意味で心配性なんです。これまでは活躍できていたけれど、職場が変われば活躍できるかわからない。こう思っている人は、就職先の会社に自分から染まりにいこうとします。すり合わせをし、この会社の文化を自分の文化にしようとしている。結果的に成功する人だと思います。
逆に、入社してから1か月後くらいに「前の職場ではこうでしたが、ポートはこうですよね」と言っているような人はうまくいかないです。キーマンなのに、客観視してしまっている。自分がその会社の主体者になれないと、うまくいきませんね。

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## 採用が強い会社は何を実践しているのか?

貝谷:最後のテーマは「採用」です。これから成長を目指す企業は、難しいながらも採用を続けていかなくてはなりません。テモナさん、ポートさんは上場を目指すプロセスの中でも、うまく採用を進められてきたからこそ今の成長があると思います。ぜひ何を実践されてきたのか、教えてください。

先ほど春日さんから「採用コストをかけた」という話がありましたが、コストをかけた会社はいくらでもあると思います。そんな中でもできた会社、できない会社の違いは何だったのでしょうか。

春日:どういう人間をとろうとしているかによると思います。弊社の場合、今は新卒で入社させて育成し部長にするとか、社内起業家を生み出すような組織文化を作ろうとしてやっています。これには時間がかかりますので、わかりやすい実績を作るということを意識しています。

もうひとつ、ハイクラスのメンバーをとるときは命がけでやっていたなと思います。営業と一緒で、提案資料を作り、フィードバックをもらい、また作りなおして持っていくようなことを何度もして、とにかく候補者と接点を多く作りました。ロックしたらどこよりも徹底的に追い続けるというのは、僕らがやってきたことですし、今もそうしています。

佐川:先週と、今日も口説き会食が入っていました。採用のクロージングをする会食で、すごくパワーがかかるし、しんどいんです。でも、採用はどのくらい社長が想いを持って仕掛けられるかがとても大事。特に自分より優秀な人をとるためには、テクニックなどは通用しない、熱意しかないと思うんです。助けてくださいと、食らいついてお願いする。社長がどこまでやるか、に尽きると思います。

それから、量を担保するのは採用チームをどれだけ強くするかにかかっていますよね。社長がどれだけがんばっても、すべてはできないですから。うちは採用ノウハウを他社から直接教えてもらって、真似したりしています。そこまでしないとうまくはできないですよね。

貝谷:私はgumiという会社で仕事をしていましたが、当時の社長がまさにそれをやっていましたね。海外でのあの企業の人が辞めたというニュースをネットで見た瞬間に、その国に行って口説いてくるようなことをやっていて、「それが社長の仕事だから」とよく言っていました。自分の会社をそれだけ想っている、大事にしているということでもありますよね。

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## 社長は追い続け、言い続けろ 

貝谷:ここまで組織成長や組織構築、IPOなどいろいろお話しを聞きました。最後に、これからIPOを目指す企業や、組織を大きくしていきたいと考える企業の方にアドバイスをいただけますか。

春日:そうですね。上場準備をやっている中では、とにかく業績が大事だと僕は思います。業績が高いと、社内の管理体制の導入やオペレーションなどすべてに前向きになり、社員の士気も高い。みんなが前を向いている状況を作れたからこそ、本格的に準備したのは9か月という、短い時間で上場できたと思います。

上場後も含め、社長に求められるものは、やはり業績を出すこと。業績が出ていれば、社内も雰囲気が良く、外から仕事が飛んでくるので、すべてが良い方向に回転していきます。逆に業績が落ちていくと、すべてが悪循環に陥るんです。

また上場後に意識してやっているのは、浮ついたところをつぶしにいく、甘さがあるところをつぶしていくということですね。社長はこの会社に対して一番愛をもっている人間のはずなので、その責任感と愛情をもって、ちょっとした膿をつぶしていく。この気持ちは常に持っていきたいと思います。

佐川:上場の準備期間を振り返ったときに、ポイントとなったことは3つあると思っています。期限厳守、ストックビジネスであること、そしてスモールサイズであることです。

一つ目は期限厳守ということ。これは、最初に上場すると言い始めたときから「2017年の4月に絶対に上場する」ということを、証券会社、監査法人、社内などすべてに言い続けてきました。

1日たりとも遅れることは許さない、それができないのだったら主幹事にも降りてほしいと言いましたし、できるといってくれた主幹事とガッチリと組んでやってきました。上場準備は、何が起きるかわからない。長くなればなるほどリスクが高くなるし、最短で期限を区切って短期決戦。いかに期限を守るということを言い続けるか、ということは大事ですね。

二つ目は、ストックビジネスであること。これは先ほど春日さんもおっしゃっていましたが、業績に深く関わることです。

売上の上下があると難しいですよね。直前期に、売上が下に5%、利益も同じく10%ずれただけでも審査が止まってしまいます。そういう意味では、ストックビジネスはリスクをヘッジできるビジネスモデルです。

三つ目はスモールサイズであること。これはグループ会社や営業所、社員数が多すぎない、売上が大きすぎないということです。小さければ小さいほど、修正はしやすいし、監査法人のフィーも下がる。上場のハードルは下がります。逆かなと思っている人がいるかもしれませんが、大きければ大きいほど成長感を見せにくいですよね。コンパクトに上場するというのはひとつテクニックだと思います。

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IPOの前後に起きる組織変化や、採用における取り組みなどさまざまな経験を共有いただきました。特に上場後や採用の失敗談などは、どの企業でも起こりうる問題で、共感する声も多く聞かれたようです。これから組織規模を拡大していく企業、上場を目指す企業の皆さまはぜひ参考になさってください。