「今期の目標は絶対に達成させたい!」など、社員のモチベーションを上げて早めに目標を達成したいなら、インセンティブ制度が役立ちます。
インセンティブ制度の導入には一定の費用が必要ですが、短期的に大きな成果を出したいときなどは、費用以上の大きなリターンが望めます。
ただし、インセンティブ制度導入の方法を誤ると、目標達成の効果が得られないばかりか、逆に社員のモチベーションダウンを招くかもしれません。
今回は、インセンティブ制度の概要や導入方法、そしてインセンティブ制度で成果を上げた企業事例などをご紹介します。
関連記事:ベンチャー企業のストックオプションとは?メリットや利用時の注意点を解説
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インセンティブ制度とは?制度の概要と4つの支給方法
はじめに、「インセンティブ制度の概要」と「具体的な支給方法」について解説します。
インセンティブ制度は、単に業績を上げるための手段ではありません。インセンティブ制度は、社員の成長と組織目標の達成を両立させるための「戦略的なツール」です。
インセンティブ制度の概要
インセンティブ制度は、社員が目標を達成したり、組織目標を達成したりしたときに報酬や賞賛を与える仕組みのことを指します。
インセンティブの「Incentive」は、ラテン語の「incentivus」に由来しており、「火をつける」や「奮起させる」を意味する「incendere」という動詞から来ています。インセンティブ制度は、文字通り「社員の心に火をつける制度」とも言えるでしょう。
インセンティブ制度がうまく機能すると、報酬を与えられた社員だけではなく、まわりの社員にもよい刺激を与えるため、結果として組織全体の生産性が向上する効果が得られます。
インセンティブ4つの支給方法
インセンティブを支給するには、次の4つの方法があります。
1. 報酬方式(金銭的インセンティブ)
2. 評価方式(表彰、人事評価)
3. ストックオプション方式(株式報酬)
4. 福利厚生方式(福利厚生プログラムの費用負担など)
それぞれの制度を単独で運用するケースもあれば、「金銭的インセンティブ+福利厚生」など、支給方法を組み合わせて運用することもあります。
インセンティブ制度を導入する場合は、目標の大きさや難易度、組織風土などをよく考えて適切な方法を選択するとよいでしょう。
報酬方式(金銭的インセンティブ)
金銭的インセンティブとは、目標を達成した場合に歩合給や業績賞与など、金銭を支給する方法のことです。
わかりやすい事例としては、不動産の販売などで「販売利益の1%を給与にプラスする」といった方法があります。
金銭的インセンティブ制度は、週間目標や月間目標の達成率に応じて支給されることも多く、短期の成果向上を目指す組織に向いている制度と言えます。
評価方式(表彰、人事評価)
表彰や人事査定をインセンティブとして与える方法もあります。
金銭的な報酬ではなく、「全員の前で表彰されたい」など、報酬よりも「賞賛」をモチベーションにしている社員も多いでしょう。
人事評価に反映させる方式なら、評価された本人だけではなく、関わるメンバー全員の士気を上げることにもつながり、結果として組織全体のモチベーションもアップします。
表彰や人事評価によるインセンティブ制度は、中長期的な目標達成を成し遂げたい組織に向いています。
ストックオプション方式(株式報酬)
ストックオプションや株式付与は、従業員に対して会社の株式を提供する方法です。組織目標の達成率やポジションに応じて株式を分配し、結果として株式が上場すると大きなリターンが得られます。
ストックオプション方式は、スタートアップ企業などで用いられることが多く、会社のビジョンへの共感と参画意識を高めさせたいときに使える効果的な方法です。
参考:中小機構公式サイト「ビジネスQ&A:ストックオプションのメリットについて教えてください」
福利厚生方式(福利厚生プログラムの費用負担など)
福利厚生を通じたインセンティブは、従業員の健康や福祉に焦点を当てたものです。
たとえば「目標を達成したら福利厚生施設の利用料を一部負担する」などの方法があります。
福利厚生方式でのインセンティブ制度は、社員のロイヤリティ向上やエンゲージメント向上につながる制度と言えます。高額な報酬は過度な労働につながるなど、さまざまなリスクを抱える場合があります。
福利厚生方式のインセンティブなら、社員や家族の健康やメンタル維持も実現でき、長期的な従業員の生産性向上や離職率の低下にもつながるでしょう。
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インセンティブ制度のメリットデメリット
インセンティブ制度は、早期に目標を達成させるなどメリットが多い制度ですが、運用方法を誤ると「不要な競争を煽る」などのデメリットも起きがちです。
【インセンティブ制度のメリットデメリット】
- メリット1:生産性向上と目標達成
- メリット2:社員定着率の向上
- デメリット1:短期的な成果に拘り過ぎてしまう
- デメリット2:競争激化によるストレスがかかる
インセンティブ制度のメリットデメリットについては、日本大学の安藤教授が書いた論文「金銭的・非金銭的報酬とワークモチベーション」が参考になります。論文では、インセンティブ制度は短期的な目標達成に効果的な一方、「極端に行動が偏ってしまう」「内発的動機づけを損ねてしまう」などの問題にも触れています。
メリット1:生産性向上と目標達成
インセンティブ制度のひとつ目のメリットは「生産性向上と目標達成」です。
競合環境が厳しい営業職種などでは、実績に応じた高い報酬を与えることにより社員のモチベーションを維持し、短期的な成果につなげることも可能です。
インセンティブ制度は、達成者本人だけではなく、新人層のモチベーションにも大きな影響を与えます。「〇〇さんのように大きく稼ぎたい」と、全員の意識を高めることにもつながり、結果として組織全体のパフォーマンスも上がるでしょう。
メリット2:社員定着率の向上
インセンティブ制度を適切に運用すれば、社員の満足度は高まりエンゲージメントも上がるでしょう。社員のエンゲージメント向上は離職率の低下につながり、結果としてノウハウの定着や組織全体の生産性向上にも寄与します。
離職率が低下すると人材採用や育成コストも削減できるため、多少インセンティブに費用がかかっても、結果的には回収できるでしょう。
デメリット1:短期的な成果に拘り過ぎてしまう
インセンティブ制度のデメリットとしては「短期的な成果に拘り過ぎてしまう」点があげられます。
営業職であれば「今月の数字さえ達成すれば良い」「強引な営業をしても稼げればよい」など、無計画な行動に出てしまうケースもあるでしょう。
インセンティブ制度の運用方法によっては、企業のブランディングにも影響を与えてしまうケースがあるため、過剰なインセンティブ支給には注意が必要です。
デメリット2:競争激化によるストレスがかかる
社員がインセンティブを意識し過ぎると、社内の競争意識を無駄に煽ってしまい、「職場のストレスが増えてしまう」といったデメリットも発生します。
「自分さえ良ければよい」など、お互いをサポートする意識も薄れてくるかもしれません。過度な競争は社員間の軋轢(あつれき)を生み、結果として組織全体のパフォーマンスが下がることもあり得ます。
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インセンティブ制度で参考にしたい導入事例
実際にインセンティブ制度を導入し、成功を収めた企業の事例もご紹介します。
金銭的インセンティブ以外にも、意外な方法で社員のモチベーションを上げた事例もありますので、ぜひ参考にしてください。
メルカリ「株式付与制度RSU」で社員のモチベーションアップ
メルカリは、一定期間勤務することで支給される新しいインセンティブ制度「RSU(Restricted Stock Units)」を導入しています。
RSUでは、インセンティブ総額の50%をキャッシュ、50%を株式で支給する方式を採用。キャッシュだけではなく株式を支給することで「社員自身が経営に参画している自覚を持てるようになった」などの効果が出ているようです。
株式は、中長期的に保有することで大きく上昇するチャンスもあるため、社員が中長期的な成果や責任を意識することにもつながっています。
参考:メルカリ公式サイト「日本初の挑戦を。メルカリが新インセンティブ制度に込めた想いとその舞台裏」
カヤック「サイコロ給とスマイル給」
コンテンツ事業を展開する「面白法人カヤック」では、サイコロ給とスマイル給というインセンティブ制度を導入しています。
サイコロ給は、サイコロの出目に応じて+αの給与が支給されるというもの。たとえば固定給20万円の人がサイコロを振って「5」が出たら、20万円×5%=10,000円がインセンティブとして支給されます。
この制度は「不確実性を楽しむ」という発想で生まれたもので、社員の独創的な発想の源になっているのかもしれません。
「スマイル給」は、「仕事が早い」「笑顔が素敵」など、他者の賞賛ポイントを給与に反映するシステム。実際の支給額は0円ですが、給与明細には記載されるため、賞賛された本人はモチベーションが上がります。
オープンハウス「朝活インセンティブ制度」でワークライフバランスを実現
注文住宅販売などの事業を展開する「オープンハウス」では、深夜残業などを防ぐために「朝活インセンティブ制度」を導入。
オープンハウスの朝活インセンティブ制度は、出社時間を早めると、1時間あたり600円の手当を支給するという仕組みです。社員からは「朝のほうが集中できて仕事がはかどる」「夜は勉強や趣味に時間を使える」など、好評のようです。
参考:株式会社オープンハウス・アーキテクト「社員の柔軟な働き方を支援。“時差出勤制度&朝活インセンティブ制度”を試験導入開始」
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インセンティブ制度導入から運用まで4つのステップ
インセンティブ制度を導入する流れについても見ていきましょう。
インセンティブ制度の導入において「高額な報酬を提示してモチベーションを上げる」といった乱暴な手法を取る企業もありますが、無計画にインセンティブ制度を導入すると失敗するリスクが高いです。
効果的にインセンティブ制度を導入するには、次の4つのステップを踏むとよいでしょう。
- STEP1:課題整理と目標設定
- STEP2:成功事例のリサーチや従業員アンケート
- STEP3:インセンティブ制度責任部署や責任者の明確化
- STEP4:制度策定~実行~フィードバック
STEP1:課題整理と目標設定
インセンティブ制度を導入する際は、現状の組織課題と目指すべき目標を明確にしましょう。
たとえば営業部でインセンティブ制度を導入する場合、実績が上がらない課題は報酬以外のところにあるかもしれません。「やる気があるのに、なぜか実績が上がらない」といった場合、もしかすると販売商品や管理者に原因がある可能性も高いです。
報酬以外に課題がある状態でインセンティブ制度を導入しても、効果は得られないでしょう。
インセンティブ制度を導入する前に、「本当の課題はなにか?」「どのような目標設定が適切か?」など、組織内でよく話し合うのがおすすめです。
STEP2:成功事例のリサーチや従業員アンケート
はじめてインセンティブ制度を導入する場合は、他社の成功事例や従業員アンケートをもとにリサーチするとよいでしょう。
自社内の情報が乏しいなら、コンサルティング会社に依頼して他社事例を聞くのもおすすめです。
ただし、従業員アンケートの内容を重視し過ぎるのはよくありません。アンケートを取ると「高額なインセンティブを希望する」など、極端な要望が出てくるケースもあります。
継続性と効率性を重視したインセンティブ制度を導入したいなら、費用対効果を冷静に考えて適切な報酬や制度を考えるようにしましょう。
STEP3:インセンティブ制度責任部署や責任者の明確化
インセンティブ制度の導入で結果を出すには、責任部署と責任者の明確化が重要です。やみくもに報酬を増やすだけでは、結果は出ません。
進捗や効果測定をする責任者をたてて「効果が出なければ終了する」などの英断も、ときには必要です。
STEP4:制度策定~実行~フィードバック
制度を導入したあとは、「達成度の測定」「問題点の洗い出し」「改善策」など、フィードバックをする機会を設けることも大切です。
インセンティブ制度の導入当初は目新しさもあるため、社員のモチベーションは一時的に上がります。しかし導入が進むにつれて「当たり前化」していくケースもあるでしょう。
インセンティブ効果を測定し、場合によっては制度の内容をアレンジしていく柔軟さも大切です。
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インセンティブ制度導入でよくある質問
インセンティブ制度の導入には、多くの悩みや不安がつきものです。
「多額の報酬を与えても効果が出ない」「公平性が保てない」など、いくつかのよくある悩みにもお答えします。
インセンティブを支給しても一部の優秀層にしか効果が出ません。どうすればよいですか?
営業組織などの場合は一部の優秀層だけが目標を達成し、インセンティブ予算のほとんどを一部のメンバーだけが獲得するケースも多いでしょう。全体のボトムアップが図られないと、インセンティブ制度を導入した意味が薄れます。
一部の層しか効果が出ない場合は、次のような施策が有効です。
- 低パフォーマーにも報酬を出せるよう、段階的な目標を設定する
- 個人ではなく、チームや組織目標の達成でインセンティブを支給する
- 報酬制度の導入と併せてトレーニング計画なども実行する
多額の予算をインセンティブに充てても、組織全体の効果が出なければ導入する意味はありません。制度の管理責任者が全体を俯瞰しながら進捗管理し、自社組織に合った運用方法を考えることが重要です。
できるだけ公平性を保ったインセンティブ制度を導入する方法を教えてください
「営業だけが報酬をたくさんもらえて、総務部はもらえない」など、部署間で不公平が発生することもよくある話です。
組織内で公平性を保ちたいなら、それぞれの部署で適切な目標を設定し、報酬だけではなく福利厚生などのインセンティブを導入するのがおすすめです。
しかし、インセンティブはあくまでも「求められた実績以上の功績に対する報酬」という意味合いが強い制度です。難易度が高い仕事を達成して、はじめて支給されるケースも多いでしょう。そのため、「インセンティブ制度で公平性を担保する」という考え方自体が間違っている可能性もあります。
いずれにしても、インセンティブ制度を導入する場合は、組織の風土や仕事の難易度などをよく見ながらルールなどを詳しく説明し、透明性を保った運用を心がけるようにしましょう。
インセンティブ制度を導入してもマンネリ化してしまいます。対策が知りたいです
インセンティブ制度がマンネリ化する場合は、年度を通じて運用するのではなく、時期を事前に決めたうえで運用するのがおすすめです。
年度を通じてインセンティブ制度を運用してしまうと、モチベーション維持が難しくなります。「毎年4~6月だけ」「繁忙期だけ」といったように、集中的に運用したほうが効果が上がります。
インセンティブ制度は社員の内発的モチベーションに悪影響を与えませんか?
報酬だけをモチベーションにするようなマネジメントだと、どうしても内発的動機づけがなくなり「お金がもらえるから働く」という考え方になりがちです。
内発的動機づけがなくなるのは「インセンティブの実施時期」と「管理者のマネジメント方法」に課題があるケースがほとんどです。
過剰な報酬が常態化すると、内発的動機づけは弱くなります。報酬額を決める場合は、基本給とのバランスをよく考え、適度な額に設定するとよいでしょう。また、人事評価をする場合は、実績だけではなく「協調性」「課題解決能力」など、定性的な評価を反映するとよいかもしれません。
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まとめ
インセンティブ制度は、組織の目標達成と社員のモチベーション向上に寄与します。
効果的に運用するには、「課題の明確化」「成功事例などの情報収集」「適切な責任者の設定」などの準備が大切です。
自社課題や運用方法に迷う場合は、組織コンサルティング専門の会社に相談する方法も検討してみてください。
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監修者
人材育成/組織マネジメント専門ライター(KEN’S BUSINESS代表)
嶋よしかず
メーカーのエンジニア、法人営業コンサルタントを経て、大手通信企業にて600名の組織を統括。所属企業の経営戦略や人材育成に携わる。現在は大手オウンドメディアにて、組織マネジメントや人材育成などの記事執筆や監修に携わっている。